NYで活躍する気鋭ギタリスト、ヨアヴ・エシェド『Guitar Hearts』
クラシック・ピアニストとしての経験から生み出された独自のアプローチで注目されるジャズ・ギタリスト、ヨアヴ・エシェド(Yoav Eshed)の新作『Guitar Hearts』がリリースされた。今作もカルテット編成を基本としており、NY出身のベース奏者ベンジャミン・ティベリオ(Benjamin Tiberio)と、韓国出身でNYで活躍するドラマーキム・ジョングク(Jongkuk Kim)を前作から引き続き起用。ここに新たにGTOトリオで知られるピアニストのガディ・レハヴィ(Gadi Lehavi)が加わり、全編で素晴らしい演奏が繰り広げられる。
彼の前作『August』(2020年)はアルバムの半分近くをベンジャミン・ティベリオ作の楽曲が占めていたが、今作は収録の9曲すべてがヨアヴ・エシェド作曲となり、よりアーティストとしての自身の表現を前面に出している。楽曲は抒情的な傾向が強く、新旧のジャズのほか、明らかに中東音楽や西洋クラシック音楽からの影響を感じさせる。ストーリーを重視し、そこから発展的に即興を膨らませていくスタイルは直情的で、なかなかにリスナーの胸に訴えかけるものがある。
今作中、もっとも“ストーリーテラー”としてのヨアヴ・エシェドの才能を感じさせるのは(4)「Remember That Space?」だろう。ゆったりとしたバラードで、情感豊かなメロディーと和音進行が美しい。今作中で唯一、ドラムスをオフリ・ネヘミヤ(Ofri Nehemya)が演奏している曲でもあり、さらにエンディングではストリングスも効果的な演出を加えているという点でも際立っている。
アルバム・タイトルの「Guitar Hearts」は彼のカルテットに与えられたバンド名であり、多くのフォロワーを抱える彼のInstagramアカウントのIDでもある。ヨアヴ・エシェドは今作でもギターの演奏に温かな心を通わせ、音楽のもっとも美しい側面を提示している。
ピアニストのアプローチでギターを弾く
1989年生まれのヨアヴ・エシェドは3歳になる誕生日の直前からピアノを習い始め、モーツァルト、バッハ、ヘイデン、メンデルスゾーンといった作曲家の曲を練習し、7歳で最初のリサイタルを行った。ギターを始めたのは13歳からで、以来多くのイスラエルのジャズミュージシャンと共演し、アメリカ-イスラエル文化財団1ジャズ奨学金を獲得。スイスのモントルー・ジャズ・フェスティバルのギターコンクールで3位を得るなど活躍の場を広げ、バークリー音楽大学を首席で卒業している。
彼は非常に優れたギタリストだが、和音への理解など音楽の基礎はピアノによって築かれている。
例えば、ほとんどの曲はピアノで作曲しているし、ギターを始めた頃には指板の音を覚えるために、ピアノの鍵盤のように白と黒で各弦各フレットを塗り分けていたそうだ。
ギターの演奏と即興のアプローチにもピアニストとしての経験が活きる。
ピアニストが左手でコードを押さえると同時に右手でソロのフレーズを弾くように、ヨアヴはギターでコードとメロディーを同時に演奏する。
2012年、ヨアヴ・エシェドはギタートリオ「Trio Millionaires」を率い、歌手でコメディアンのトメル・シャロン(Tomer Sharon)の協力を得て有名なイスラエルの子供向けソングブック「The 16th Sheep」をジャズにアレンジしたプロジェクトを開始。これはイスラエルの文化省の支援も受けている。
近年はスペイン出身の注目の女性ギタリスト/SSWのラウ・ノア(Lau Noah)とも度々共演するなど、NYジャズの中心で存在感を強めるヨアヴ・エシェド。その活躍から目が離せない。
Yoav Eshed – guitar
Gadi Lehavi – piano
Ben Tiberio – double bass
Jongkuk Kim – drums
Ofri Nehemya – drums (4)
Lucy Voin – violin, viola (4)
Ceridwen McCooey – cello (4)
- アメリカ-イスラエル文化財団(AICF)…1939年に設立された非営利組織で、米国とイスラエルの文化的交流を促進することを目的としている。若いイスラエル人アーティストに奨学金やイベントを通じて支援を提供し、音楽や美術などの分野で国際的なキャリアを後押し。イツァーク・パールマン(Itzhak Perlman)ら著名アーティストを輩出し、両国の友好関係強化に貢献している。 ↩︎