E.ピエラヌンツィ、エンニオ・モリコーネの音楽を再解釈
アマプラでドキュメンタリー映画『モリコーネ 映画が恋した音楽家』(2021年)を観て、やっぱりモリコーネの音楽は素晴らしいな、と思いながらApple Musicで「ガブリエルのオーボエ」を聴こうと検索したら、タイムリーにエンリコ・ピエラヌンツィ(Enrico Pieranunzi)がモリコーネ曲集のEPをリリースしていたことを知った。
エンリコ・ピエラヌンツィは上記映画にも登場していたイタリアを代表するジャズピアニスト。彼はキャリア初期の1970年代から度々モリコーネのサウンドトラックにピアニストとして参加しており、2002年には『Play Morricone』と題したモリコーネ曲集をトリオ編成で2枚出すなど、深い縁がある。
2025年11月28日リリースのEP『Ennio Morricone – The Piano Sessions by Enrico Pieranunzi』では、ピエラヌンツィは完全にソロで演奏。彼はしみじみとその美しさに浸るように一人でピアノに向かい、モリコーネの魂と語り合うようだ。
モリコーネの盟友ピエラヌンツィが魂を込めたソロピアノ
収録曲は4曲のみだが、いずれもモリコーネの代表作と言える、ファンにとっても嬉しい選曲だ。
(1)「Il Clan dei Siciliani」は『シシリアン』(1969年)のテーマ曲。ピエラヌンツィは過去に『Play Morricone 2』の冒頭曲としてマーク・ジョンソン(Marc Johnson, b)、ジョーイ・バロン(Joey Baron, ds)とともにスウィングする軽快なカヴァーを披露したが、ここでは雰囲気は一転し、重く感傷的なソロが繰り広げられる。原曲に忠実なクラシカルなコード進行から、イタリアン・ポップスも手掛けていた当時のエンニオ・モリコーネの淡い影が蘇る。
(2)「Metti una sera a cena」は『ある夕食のテーブル』(1969年)のテーマ。原曲は南米ブラジルのボサノヴァに影響された洒脱な曲で、印象的な女性スキャットとともに映画本編以上に知られているモリコーネの代表作のひとつだ。官能的なメロディー、ハーモニー、リズムを1台のピアノで再現するピエラヌンツィの感性がいつものことながら素晴らしい。3分弱という長くはない時間の中で、突如4拍子から3拍子に切り替わる中盤など、まるで魔法のようだ。
(3)「The Ecstasy of Gold」はクリント・イーストウッド(Clint Eastwood)をスターダムに押し上げた映画『続・夕陽のガンマン』(1966年)の有名曲。後年にはヘヴィメタル・バンドのメタリカ(Metallica)によるカヴァーも話題になった。埋蔵金を巡る西部劇に相応しい鬼気迫るマイナー調の名曲を、ピエラヌンツィはその質感を損なうことなく彼らしい激情的な即興も交え、現代に生々しく蘇らせている。
(4)「The Mission (Gabriel’s Oboe)」は『ミッション』(1986年)より。映画ではキリスト教布教のために南米のグアラニー族のもとを訪れた神父が吹く印象的なオーボエの曲だが、ここではその美しいメロディを感動的なピアノ独奏にアレンジしている。
Enrico Pieranunzi 略歴
ピアニスト/作曲家のエンリコ・ピエラヌンツィは1949年イタリア・ローマ生まれ。ジャズギタリストの父の影響で幼い頃からクラシック音楽を学び、1973年に音楽教授の資格を取得。2年間教壇に立った後、演奏活動に転向した。
1975年から本格的にミュージシャンとして活躍し、以降リーダーとして60枚以上のアルバムを録音。セッション・ミュージシャンとしても欧米のジャズフェスティバルにも数多く出演を重ね、そのクラシックとジャズをシームレスに融合した演奏スタイルによってイタリアを代表するピアニストとして世界中に知られることとなった。
これまでにジム・ホール(Jim Hall)、マーク・ジョンソン(Marc Johnson)、チャーリー・ヘイデン(Charlie Haden)、ジョーイ・バロン(Joey Baron)、チェット・ベイカー(Chet Baker)といったレジェンドたちと共演。受賞歴も豊富で、1982年に『Isis』で批評家賞、1983年と1989年にMusica Jazz誌のミュージシャン・オブ・ザ・イヤー、1995年に『Flux and Change』で年間ベストCD、1997年にDjango d’Or賞ベスト欧州ミュージシャン、2009年に『Yellow and Blue Suites』でフランス・ジャズアカデミー賞、2015年にTop Jazz 2014生涯賞を受賞している。
Enrico Pieranunzi – piano