ブッゲ・ヴェッセルトフトが多様な編成で贈る『Am Are』
ノルウェーの先進的なジャズを牽引するピアニスト/作曲家ブッゲ・ヴェッセルトフト（Bugge Wesseltoft）が、個性豊かなゲストを迎えて制作した2025年新譜『Am Are』。アルバムではソロからトリオまでメンバーを変えて様々な編成やサウンドを試すなど実験的な要素がありつつ、ジャズの伝統にもしっかりと根差し、聴きやすくも刺激的な作品だ。
ソロピアノとシンセサイザーのレイヤーによるアンビエントな雰囲気の(1)「How?」はまだ、これから始まる千変万化の物語の多くを隠したわずかな”予感”でしかない。新進気鋭のドラマー、エリアス・ターフィヨル（Elias Tafjord, 1997 – ）による現代的なリズムの上でブッゲ・ヴェッセルトフトがピアノやシンセで自由に暴れ回る(2)「ReiN」は劇的な転換によって物語への没入を促す真のオープニングだ。
遊び心の溢れるイントロで始まる(3)「Is Anyone Listening?」では、シンガーのロヘイ・ターラ（Rohey Taalah, 1993 – ）と サックス奏者のマルティン・ミューレ・オルセン（Martin Myhre Olsen, 1991）が今作の中でも異色の存在感を放つ。
(4)「BAG」と(5)「Reel」にはベテラン・ベーシストのアリルド・アンデルセン（Arild Andersen, 1945 – ）と中堅ドラマー、ガード・ニルセン（Gard Nilssen, 1983 – ）をフィーチュア。一見するとピアノ、ダブルベース、ドラムスというオーソドックスなピアノトリオ編成だが、前者はブッゲ・ヴェッセルトフトが時折繰り出す大胆で実験的な即興のフレーズが面白いし、後者は楽曲そのものが知的な好奇心の発現のようで、ダブの表現も取り入れた斬新なサウンドとなっている。
ともに半世紀に渡り、ノルウェーのジャズを牽引してきた二人──ベーシストのスヴェイヌング・ホーヴェンショー（Sveinung Hovensjø, 1950 – ）とドラマーのヨン・クリステンセン（Jon Christensen, 1943 – 2020）──との共演である(6)「Render」と(7)「Vender」にも注目したい。この2つのトラックは、約10年前（2015年頃）に数十年ぶりに3人が再開した際に、ブッゲ・ヴェッセルトフトのホームスタジオで録音された即興セッションの成果であり、ヨン・クリステンセンの逝去を経て、長い年月を超えてアルバムに収録されることになった。互いの楽器や演奏を通じて語り合う、最高に心地よい空間を生み出す。
続く2曲は再び若き才能とのトリオ。デンマーク人ベーシストのイェンス・ミッケル・マセン（Jens Mikkel Madsen）とノルウェーのラッパーや女優としても知られるドラマー、オユン（Øyunn, 1995 – ）との演奏で、ここでは終始ブッゲ・ヴェッセルトフトが主導し、リズム隊の二人は彼を優しく支えるようなアンサンブル。
ラストの(10)「Think aHeaD」も興味を惹かれる。ネパール出身の女性タブラ奏者サンスクリティ・シュレスタ（Sanskriti Shrestha）とノルウェーの女性ギタリストリリャ（LILJA, Oddrun Lilja）という若い才能との共演で、中盤から後半にかけては場面転換的な効果をもたらすケイオスティックなフリージャズ表現も相まって印象的なエンディングで締めくくる。
Bugge Wesseltoft – piano, synthesisers, organ, Fender Rhodes
Elias Tafjord – drums (2)
Rohey Taalah – vocal (3)
Martin Myhre Olsen – saxophone (3)
Arild Andersen – acoustic bass, effects (4, 5)
Gard Nilssen – drums (4, 5)
Sveinung Hovensjø – electric bass (6, 7)
Jon Christensen – drums, bells (6, 7)
Jens Mikkel Madsen – acoustic bass (8, 9)
Øyunn – drums (8, 9)
Oddrun Lilja – guitar (10)
Sanskriti Shrestha – tabla, harp (10)