中東、ブラジル、アフリカ……自身の多様な音楽的ルーツを取り込んだオメル・クライン新作

Omer Klein - The Poetics

オメル・クライン、新生セクステットで描く詩的なアルバム

イスラエル出身のピアニスト/作曲家、オメル・クライン(Omer Klein)の新譜『The Poetics』は、長年活動を共にするベースのハガイ・コーエン・ミロ(Haggai Cohen-Milo)とドラムスのアミール・ブレスラー(Amir Bresler)に加え、オランダのアルトサックス奏者ティネカ・ポスマ(Tineke Postma)、イスラエルのテナーサックス奏者オムリ・アブラモフ(Omri Abramov)、さらにコロンビア出身の打楽器奏者トゥパク・マンティージャ(Tupac Mantilla)というセクステット編成が特徴のアルバム。

オメル・クラインは、ドイツのフランクフルトにある歴史ある旧オペラ座(Alte Oper Frankfurt)1で2024年10月から2025年にかけての1シーズンでアーティスト・イン・レジデンス2を務めた。彼はこのレジデンス期間中のインスピレーションによってセクステット「The Poetics」を結成し、そこで初披露した音楽がアルバムの基盤となっている。

(1)「Compassion」。旧オペラ座での公演の模様

今作は彼のこれまでの作品以上に、ブラジル音楽の要素が取り入れられたものになっている。ポルトガル語で「風と大地」を意味する(4)「Vento & Terra」、サンバのリズムを取り入れた(8)「Samba of My Own」。特にブラジル音楽からの影響について、彼はインタビューで次のように語っている:

私はイスラエルで育ちましたが、初めて耳に届き、強烈な衝撃を受けた音楽は、イスラエルのポピュラー音楽作曲家たちの作品でした。彼らは素晴らしい音楽家で、世界中の音楽を研究していました。彼らの作品を通して、世界の音楽の美しさを多く取り入れ、豊かで色彩豊かな独自の音楽を作る道を示してくれました。中でも特に、マティ・カスピ3という作曲家が今月亡くなったばかりで、私がなぜこれほどブラジル音楽に惹かれるのかを改めて考えさせられました。ある意味、これも彼のおかげと言えるでしょう。彼はブラジル音楽の偉大な研究者であり、私の母語であるヘブライ語で、ブラジル風の音楽を数多く生み出してくれたからです。

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(4)「Vento & Terra」。旧オペラ座での公演の模様

もうひとつ重要な要素はアフリカ、特に北アフリカのリズムの導入だ。チュニジアがルーツのひとつである彼は、(2)「Plat Tunisien」のアフリカ音楽的ポリリズムで力強くその出自に言及している。楽曲は途中でスウィング・ジャズのパートへと移行するが、多様なルーツを自身の道であるジャズに取り入れた彼の半生を象徴するような展開が印象深い。

Omer Klein 略歴

1982年、イスラエルのネタニヤに生まれたオメル・クラインは、現代ジャズシーンにおいて最も多才で独創的なピアニストの一人として知られている。イスラエル生まれの両親の子であり、チュニジア、リビア、ハンガリーからの移民の孫である彼は、5歳から鍵盤楽器に親しみ、13歳でジャズピアノに転向した。国内の名門テルマ・イェリン芸術高校で学んだ後、2005年に渡米。ボストンのニューイングランド音楽院ではダニーロ・ペレス(Danilo Perez)らに師事し、ニューヨークのシーンでも頭角を現す。その後、活動の拠点をドイツへ移し、現在はミュンヘン音楽演劇大学の教授も務めている。

彼の音楽的アイデンティティは、中東の伝統的な旋律、アフリカのリズム、そして彼が深く傾倒するブラジル音楽の要素が、モダン・ジャズの語法と高度に融合している点にある。2013年にハガイ・コーエン=ミロ(ベース)、アミール・ブレスラー(ドラムス)と結成した「オメル・クライン・トリオ」は、彼のキャリアの中核をなす存在だ。このトリオは2017年のアルバム『Sleepwalkers』でドイツの権威あるエコー・ジャズ賞を受賞し、その後も『Radio Mediteran』(2019年)や『Life & Fire』(2023年)といった秀作を次々と発表し、世界的な評価を確立した。

2026年には、自身の音楽的探求をさらに深化させた新プロジェクトである「The Poetics」を始動。従来のトリオに管楽器やパーカッションを加えたセクステット編成で、より色彩豊かでオーケストレーションの効いたアンサンブルを追求し、アルバム『The Poetics』で混迷する現代社会への応答として「慈しみ」をテーマに掲げ、ジャンルの境界を超えた壮大な物語性を提示した。

Omer Klein – piano, Rhodes
Tineke Postma – soprano saxophone, alto saxphone
Omri Abramov – tenor saxophone, flute
Haggai Cohen Milo – double bass, electric bass
Tupac Mantilla – percussion
Amir Bresler – drums

  1. 旧オペラ座(Alte Oper Frankfurt, アルテ・オーパー)…ドイツのフランクフルトにある1880年築の歴史的な建物で、ネオ・ルネサンス様式の美しさから「フランクフルトの宝石」と称される。多くの著名なオペラが上演されてきたが、第二次世界大戦中の1944年の空襲で破壊されたのち、市民の寄付で1981年に再建され、現在は主にコンサートホールとして使用されている。 ↩︎
  2. アーティスト・イン・レジデンス(Artist-in-residence program)…各種の芸術家を一定期間特定の土地に招聘し、その土地に滞在させながらの作品制作を行わせる事業のこと。 ↩︎
  3. マティ・カスピ(Matti Caspi, 1949 – 2026)…イスラエルを代表するシンガーソングライター。1970年代前後から活動し、クラシック音楽、ブラジル音楽、ラテン音楽、ジャズ、ロックなど様々なジャンルから影響を受けた独自の作風で、イスラエルの音楽文化に大きな影響を与えた。 ↩︎

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