アントニオ・ロウレイロという稀代の天才を知らしめた名盤『Só』

Antonio Loureiro - Só

稀代のマルチプレイヤーの会心作

アントニオ・ロウレイロ(Antonio Loureiro)の2013年リリースの2ndアルバム『Só』は、ピアノ、ヴィブラフォン、ドラムス、ギター、ベースなどを弾きこなす稀代の天才マルチプレイヤーの最高傑作だ。

アントニオ・ロウレイロは2006年に『Antonio Loureiro』で衝撃的なデビューを飾っているブラジル・ミナス新世代の音楽家。2018年リリースの最新作『Livre』も凄かったが、彼のこれまでの最骨頂といえば本作『Só』だと思っている。

予想を裏切る楽曲の展開、変拍子に難解なポリリズム、哲学的な歌詞など凡人の理解力では到底追いつけないインテリジェンスを秘めながらも、ミナスの新世代と呼ばれる音楽家たちに共通する妙に親しみ深い音楽性で全ての楽曲に魅力を感じてしまう。

ハファエル・マルチニやアンドレス・ベエウサエルト、ジョアナ・ケイロスといった“ミナス新世代”を代表するミュージシャンらとの(2)「Reza」のライブ演奏。

ラストの「Luz da Terra」という曲はとにかく凄い

このアルバムの中で特筆すべきは、ラストに収録された(10)「Luz da Terra(地球の光)」だ。私のApple Musicの記録によると、この曲は約300回ほど再生されており、ダントツのトップになっている。

ヴォーカルを含むほとんどのパートをアントニオ・ロウレイオが演奏しているが、女性ヴォーカリストとしてタチアナ・パーハ(Tatiana Parra)、ピアニストとしてアンドレス・ベエウサエルト(Andrés Beeuwsaert)がゲスト参加し、素晴らしい効果をもたらしている。

現代ブラジルを代表する歌手であるタチアナ・パーハの、そのナチュラルで魅力的な歌声はアントニオ・ロウレイロとの二重唱でも見事にはまっているし、特に彼女が歌う韻を踏んだ2番の歌詞の部分(下記)の発音は最高だ。
意味の理解ができない外国語の歌の場合、ヴォーカルを音楽の一部分として捉える聴き方をするとその発音も魅力的な要素のひとつとなるが、タチアナ・パーハの歌にみられる素朴で魅力的なポルトガル語の発音は完璧に思える。

Lua cheia Santa Maria da Ínsua
Que ilumina o Atlântico Norte
Sol nascente no meio de um crepúsculo
Amuleto matutino da sorte

満月のサンタ・マリア・ダ・オンスア
北大西洋を照らす
夕暮れの真ん中に昇る太陽
朝のお守り

そしてピアノでゲスト参加しているアンドレス・ベエウサエルトのプレイの素晴らしさといったら…!
現代アルゼンチン音楽の旗手であるアカ・セカ・トリオ(Aca Seca Trio)の鍵盤奏者である彼の、この楽曲における貢献度は計り知れない。最後のコーラス部分(3’58”以降)で自由自在に弾きまくる彼のピアノに衝撃を受けない人はおそらくいないだろう。5’10″頃まで続くこの圧巻のコーラス部分で、アンドレス・ベエウサエルトのアドリブは完全に主役になっており、この素晴らしいアルバムの印象を決定づけている。

楽曲の“余韻”はとても大事なものだと思う。

アーティストがその魂を込めて創造した一枚のアルバムの最後の曲が終わり、訪れる静寂。

その質において、アントニオ・ロウレイロの『Só』という作品は、私がこれまでの人生で出会った数々の作品の中でも最も優れている。

「Luz da Terra」のアントニオ・ロウレイロによる全楽器自演バージョン。
しかしこれは、タチアナ・パーハのヴォーカルも、アンドレス・ベエウサエルトのピアノも含まれていない。
名曲「Luz da Terra」の最高の演奏を、ぜひアルバム『Só』で体験してもらいたい。
Antonio Loureiro - Só
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