ジョヴァンニ・ミラバッシ、ジブリ曲集をリリース
欧州を代表するピアニスト、ジョバンニ・ミラバッシの新譜『MITAKA CALLING -三鷹の呼聲-』はそのタイトルが連想させる通り、ジブリ映画の楽曲集。アルバム・ジャケットのイラストを自身もミラバッシのファンだと公言する宮崎駿監督が提供するなど、スタジオジブリ×ミラバッシの相思相愛の作品だ。
アルバムの収録曲は全曲が久石譲作曲(余談だが、久石譲という芸名は米国の名プロデューサー、クインシー・ジョーンズのもじりだ)。ジブリ映画ファンなら、(2)「アシタカせっ記 〜「もののけ姫」」、(3) 「海の見える街 〜「魔女の宅急便」」、(9)「となりのトトロ」など、ミラバッシの原曲を大切にした美しい演奏は映像とともに思い出を蘇らせてくれることだろう。
トリオで演奏されるこれらの楽曲も素晴らしいのだが、個人的にはミラバッシのピアノ独奏で演じられる(7)「王蟲との交流 〜「風の谷のナウシカ」」や(8)「崖の上のポニョ」を推したい。原曲の歌付きだとどうしても子供向けに感じられる同曲を、これ以上ないほど美しく、ピアノだけで再現した演奏はジブリファン必聴だ。
ミラバッシの代名詞である、感性の赴くままに繰り出される(そして少しの手グセで弾かれる)右手の流麗なアドリブが今作でも冴え渡っており、ジブリの美しい世界観にぴったりとハマる。題材が親しみやすいだけに、普段ジャズを聴かない人にもぜひ聴いてもらいたい。間違いなく“本物のジャズ”がここにはある。
そして、アルバムのジャケットを描いたのはなんと宮崎駿監督ご本人。
宮崎駿氏はジョバンニ・ミラバッシのファンを公言しており、彼の代表作『Avanti!』を聴き込んだという。2015年の来日ツアーでは宮崎駿監督も演奏を聴きに訪れ、『紅の豚』主題歌を歌った加藤登紀子氏とともにミラバッシの楽屋を訪れ花束を渡したというエピソードも。
反戦など硬派なテーマの一方、日本アニメをこよなく愛する一面も
ジョヴァンニ・ミラバッシ(Giovanni Mirabassi)は1970年、イタリア・ペルージャ生まれのジャズピアニスト。バド・パウエルやアート・テイタム、そして特に同郷のエンリコ・ピエラヌンツィ(Enrico Pieranunzi)に強く影響された演奏スタイルで、激しさを内に秘めた叙情的な作曲やアドリブセンスで日本でも多くのファンを持つ。
大阪発のインディーレーベル、澤野工房の姉妹レーベルであるフランスのSketchから1999年に初のリーダー作『Architectures』をリリース、名曲(1)「Un Dimanche de Pluie(雨の日曜日)」など全曲オリジナルで構成された美しい楽曲群は、たちまちジャズファンの間で話題となった。
2001年にリリースした『Avanti!』は世界各地の反戦歌や革命歌といった硬派なテーマのピアノ独奏作品だったが、ジャズの、しかもソロピアノのアルバムとしては異例の全世界で10万枚以上のセールスを記録。一躍ジョヴァンニ・ミラバッシの名を世界に轟かせる名盤となった。このアルバムは個人的にもこれまでに聴いた音楽作品のベスト3に入る。『紅の豚』挿入歌としても知られるフランスのシャンソン「さくらんぼの実る頃(Le Temps des Cerises)」も収録されている──ただ、現時点でApple Musicなどのストリーミングサービスでは配信されておらず、多くの方が気軽に聴ける機会が提供されていないのが残念だ。
2011年には「International」「Lili Marleen」「Hasta Siempre」といった名曲を収録した『Avanti!』の続編とも言えるソロピアノ作品『Adelante』もリリースしている(こちらもフィジカルのみ)。
ミラバッシはこうした硬派なテーマを追求してきた一方で、幼少期に大きな影響を受けたという日本発のアニメへの愛も公言してきた。
2005年のアルバム『Prima o Poi』で唐突に(5)「Howl’s Moving Castle」(ハウルの動く城)のテーマを取り上げると、2015年にはいかにも日本発の企画盤くさい『アニメッシ~天空の城ラピュタ ほか~』(Animessi : Le Chateau Dans Le Ciel)をリリース。「君をのせて」「人生のメリーゴーランド」「炎のたからもの」といった日本のアニメ/アニメ映画の有名曲を収録し“子供の頃にナウシカ姫に恋をしました。”のキャッチコピーで大々的に喧伝された同作品はSNSなどで話題になった。
兄は世界的ジャズクラリネット奏者のガブリエーレ・ミラバッシ(Gabriele Mirabassi)。
ガブリエーレ・ミラバッシの1997年作『Cambaluc』では、まだリーダー作デビュー前のジョヴァンニ・ミラバッシのピアノ演奏を1曲だけ((6)「Otto Anni」)聴くことができる。