ポルトガルギターの伝統を突き抜けるマルタ・ペレイラ・ダ・コスタ
ポルトガルギター(ギターラ)奏者のマルタ・ペレイラ・ダ・コスタ(Marta Pereira da Costa)が自身の名を冠した2016年のデビュー作『Marta Pereira da Costa』は、ポルトガルに伝わる伝統楽器、ポルトガルギターのきらびやかな音色が存分に楽しめる心躍る作品だ。
アルバムにはファド歌手カマネー(Camané)、ドゥルス・ポンテス(Dulce Pontes)、ロック系の大御所ルイ・ヴェローゾ(Rui Veloso)といったポルトガルを代表する歌手のほか、ファドやフラメンコギターの名手ペドロ・ジョイア(Pedro Joia)、世界的ジャズベーシスト/シンガーのリチャード・ボナ(Richard Bona)、オーストラリアで活躍するイラン人歌手タラ・ティバ(Tara Tiba)が参加。ジャンルの壁を取り払う革新的な作品となっている。
マルタ・ペレイラ・ダ・コスタのオリジナル曲を中心にした構成で、ゲストミュージシャンを迎えた曲ではゲストの持ち曲を演奏。どことなく哀愁感も漂う曲調に明るいポルトガルギターの音色がよく溶け込み、一種独特の上質な風情を放つ。
アルゼンチン・フォルクローレの名曲(12)「Alfonsina y El Mar(アルフォンシーナと海)」も取り上げるなど、ファドというジャンルを超え幅広くチャレンジした内容でおもしろい。
ファド唯一の女性ポルトガルギター奏者
ポルトガルギターは主にポルトガルの伝統音楽であるファドで用いられる12弦6コースのリュートに似た楽器だが、これまでは伝統的にその奏者はほとんどが男性だったという(彼女の公式サイトには現在も“女性初、かつ唯一のポルトガルギター奏者”という記述がある)。そんな中で幼少期からピアノやギターに親しんできたマルタ・ペレイラ・ダ・コスタは18歳からこの楽器をはじめ、著名なファド音楽家カルロス・ゴンサルヴェス(Carlos Gonçalves, 2020年3月に81歳で死去)から手ほどきを受けた。その後ファド・ハウスで演奏するようになると、徐々にファドの著名な音楽家とも共演するようになり、2012年には兼業していた土木技師としての仕事をやめプロの道を歩むことに。
当時の夫でもあった“ファド新世代の貴公子”ロドリゴ・コスタ・フェリックス(Rodrigo Costa Félix)の2012年作『Fados de Amor』はファドの歴史の中で女性がポルトガルギターを弾いた初めての作品とされ、同年のベストファドアルバムの栄冠にも輝いている。