アルゼンチン随一の才能が放つ、完璧な美しさを湛えた作品
アルゼンチン・コルドバのSSWゴンサ・サンチェス(Gonza Sanchez)率いるアスィ(Así)の2020年新譜『Compartidas』が素晴らしい。ゆったりとした、それでいて力強い意思をもったリズムと、テンションたっぷりの洒落たコードの響き、そこに乗るどこか物憂げな男女ヴォーカルとコーラス。
懐かしいメロウAORと、現代的なネオソウル、軽やかなのにどこかサウダージもある南米音楽の良いとこどり。
そんなうまい話ある?と思われるかもしれないが、実際にここにあるのだから仕方がない。
アルバムはとにかく頭から再生してほしい。(1)「Pacífica atlántica」、(2)「Casita celeste」を聴けば、この作品がどれほど素晴らしいかが分かる。リラックスした歌と演奏、さりげなく作り込まれたサウンド。夢のような日常を連想させる音楽。あなたを無理矢理に鼓舞するでもなく、鬱陶しくまとわりつくでもなく、ただそこにあってほしい音楽。そんな想いに応えてくれるアルバムだ。
(5)「Hadanaranhada」は盟友ロドリゴ・カラソ(Rodrigo Carazo)が参加。ボサノヴァのリズムや、ブラジルのハンドパーカッション・パンデイロを取り入れた清涼感のあるブラジル音楽。
(8)「Casa」は、今作のカバーアートを描いたゴンサ・サンチェスの妹、マリーナ・サンチェス(Marina Sanchez)の息子の声を録音し、エルメート・パスコアールのようにメロディとハーモニーをつけた小品。
収録曲はどれもお洒落で、多くの人の生活を潤してくれる作品だと思う。
アルゼンチンの充実した現代の音楽シーンを象徴するような素敵な一枚だ。