比類なきギタリスト El Amir、アンダルシアに捧げる3rdアルバム
コロンビア人の母とパレスチナ人の父親のもと、1975年の西ドイツ(当時)に生まれ、1997年からはスペインを拠点に活動を続けているフラメンコ・ギタリスト、エル・アミール(El Amir)ことアミール・ジョン・ハダッド(Amir John Haddad)が放つ最新作『Andalucía』。いま聴いておきたいコンテンポラリー・フラメンコの傑作で、とにかく早く正確無比なギターのテクニックと、豊かな音楽的叙情が楽しめる作品だ。
いかにもフラメンコギターの達人らしく、アタック(音の立ち上がり)が強く歯切れのよいギターの音が気持ちいい。アルバムタイトルに冠されたアンダルシアは彼が子供の頃に夏を過ごしたスペイン南部の土地で、伝統芸能であるフラメンコのまさに中心地だ。この作品ではルンバ、シギリージャ、グラナイーナ、アレグリアス、ソレア、ミネラといった伝統的なフラメンコのスタイルが踏襲されているが、アミール・ジョン・ハダッドの音楽はそれだけでなくアラブ音楽や地中海音楽、ロック、ファンク、メタル、インド音楽などからも少なからず影響を受けている。
いくつかの楽曲は、歴史を築いてきた偉大なフラメンコ・ギタリストたちに捧げられている。
(2)「Solera de Huelva」はペペ・ジャスティシア(Pepe Justicia, 1960 – )に、(4)「Temple de Granada」はグラナダ出身のフアン・アビチュエラ(Juan Habichuela, 1933 – 2016)に、そして(9)「Memorias de Jaén」はパコ・デ・ルシア(Paco de Lucia, 1947 – 2014)に。
テレビのない家庭環境が才能を伸ばした(?)
アミール・ジョン・ハダッドは7歳の頃からギターやウードといった楽器を父などから習い、同年に学校のステージで演奏するなど早くからその才能を開花させた。12歳でプロとしてステージで演奏し、音楽家としての芸歴は30年を超える。
現在はフラメンコギターだけでなく、ギリシャのブズーキやトルコのサズも演奏。地中海周辺音楽を表現する現代最高峰のプレイヤーとして注目される存在だ。
これは余談だが、彼が7歳の頃に自宅のテレビが完璧に壊れ、なにもかも映らなくなってしまった。
だが両親はそれを買い換えず、後に“エル・アミール”と呼ばれるスーパー・ギタリストとなるアミール少年はその瞬間からテレビのない環境で育つことになった。このことが彼の演奏と音楽に対する創造性を伸ばすことにつながったというエピソードが、彼のホームページには掲載されている。
2005年にアルバム『Pasando Por Tabernas』でデビュー、2013年に2nd『9 Guitarras』を発表。今作『Andalucía』は彼のソロキャリアでは3作目にあたる。