パレスチナのジャズピアニスト/SSW、現代社会に鋭く切り込んだ歌モノ新譜

Faraj Suleiman - Better Than Berlin

ファラジュ・スレイマン新譜は前作に続く“歌モノ”

“パレスチナ初のジャズピアニスト”といわれるファラジュ・スレイマン(Faraj Suleiman)の新譜がリリースされた。タイトルは『Better Than Berlin』。“ベルリンよりはマシ”という何とも意味深な標題の今作は、全曲にイスラエル・ハイファ生まれのパレスチナ人作家/詩人/政治学者マジュド・カヤル(Majd Kayyal, 1990年生まれ)の詞をファラジュ・スレイマン自身が歌う内容となっている(一部楽曲にゲストヴォーカルを起用)。ファラジュ・スレイマンの歌ものとしては2019年作『Second Verse』に続き2作目となるが、いよいよジャズ・ピアニストの域を超え、本格的にシンガーソングライターとしての旗を揚々と掲げた形だ。

前作収録の「Mountain St.」のように、今作も妙に耳に残る跳ねたリズムの独特の曲調が多く、かなり中毒性のある作品になっている。
コアバンドにはコーム・アギアル(Côme Aguiar, b)、バティスト・ドゥ・シャバネー(Baptiste de Chabaneix, ds)、ピエール・ミレー(Pierre Milet, tr)のフランス勢を起用。歌詞はすべてアラビア語のパレスチナ方言で歌われており、その内容まで理解することはできないが、“この鬱々とした生活の中で感じた疑問や懸念から生じた作品で、最近の暗闇と残忍さに苦しんでいる人々の心の中にある愛、美しさ、そして憧れの瞬間を描いている”という。

アルバム収録曲はどれも強烈なメッセージを放っており、強く印象に残る。
(1)「Melodies no More」は不気味な鉄琴と暴力的なダブルベースのイントロで始まり、女性コーラスや女性ヴォーカルとファラジュによる男性ヴォーカルが交互に旋律を歌う。“アメリカ人はシカゴを燃やした、そして我々はジャズを燃やした”という歌詞も印象的で、ドラムスもタムを多用した演奏で特異な1曲となっている。

(1)「Melodies No More」
鉄琴と暴力的なダブルベースのイントロは言葉以上に感情に訴えかけてくる。
YouTubeには歌詞が全文掲載されており、Google翻訳にかければ大体の意味を知ることができる。

パレスチナ初のジャズピアニスト

ファラジュ・スレイマン(Faraj Suleiman)は1984年、パレスチナ北部のアッパーガリラヤのおもちゃ商人の家に生まれた。少年時代は他の多くの少年たちと同じようにサッカーをして過ごしていたが、ヴァイオリンでアラビア音楽を演奏する母方の叔父の影響で青年期には音楽に傾倒。周りにロールモデルのない中でジャズピアニストを志した。
イスラエルの音楽教師アリー・シャピラ(Arie Shapira)との出会いが決定的となり、音楽はもちろん、イスラエルとパレスチナを隔てる様々な問題を議論する仲となり、音楽の道が定まる。
2014年にソロピアノ作品『Login』でデビューし、以降精力的に作品をリリース。現在はフランスを拠点に、故郷パレスチナの自由を求め日々発信をしている。

Faraj Suleiman – piano, vocal
Pierre Milet – trumpet
Côme Aguiar – bass
Baptiste de Chabaneix – drums
Antonin Fresson – electric guitar
Mohamed Najem – clarinet
Shaden Kanboura, Henry Andrawes, Samaa Wakeem, Wael Wakim – vocals

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