オメル・クリンゲル『オカン・プロジェクト』
イスラエルのピアニスト/作曲家/プロデューサーのオメル・クリンゲル(Omer Kringel)の2020年作『Okan Project』。アルバムタイトルのオカン(Okan)とはもちろん関西弁ではなく、ヨルバ語で“心”を意味する言葉であると同時に、Omer Kringel ANsamble の略でもある。
収録曲は全てオメル・クリンゲルの作曲で、ラテンジャズを軸に中東音楽、ヒップホップ、ファンク、フラメンコなどが融合したなんとも色彩感溢れる仕上がりだ。
それもそのはず。このアルバムはイスラエルはもちろん、キューバ、コロンビア、ペルー、アメリカ、スペイン、アンゴラといった世界各地に散らばる彼の友人たちの大きな協力を得て制作されている。テーマは自然、自由、喜び、悲しみ、創造、そして人生。スペイン語や英語、ポルトガル語が飛び交う楽曲群には人生と音楽への喜びが溢れる。
世界中から集った多彩なゲストによる楽曲群が素晴らしい
アルバムには7ヵ国から総勢約60名が参加。
これは自由とダンスと、友人たちをめぐる壮大な人生の旅だ。
ファーストシングルにもなった(3)「Sembrar Amor」はコロンビア出身のリンダ・カルダス(Linda Caldas)のヴォーカルとエルメス・カストロ・カイセド(Hermes Castro Caicedo)のラップをフィーチュア。ラテン系の熱いブラス隊に、清涼感のあるマリンバが絡み、歌唱もアレンジも楽しい。
続く(4)「Freedom Key」はNYブルックリンを拠点とするSSW、J.ホアード(J.Hoard)がヴォーカルを担当。英語詞で歌われ、ラテンとアラブが混ざったようなサウンドがクレイジーで最高だ。
(5)「Blossom」では再びJ.ホアード(J.Hoard)がヴォーカルを担当するアップテンポのラテン曲で、エヤル・セラ(Eyal Sella)によるバンスリ(竹製のフルート)も印象的だが、間奏などはやはり中東的な旋律が顔を覗かせ味わい深い。
(6)「Mansero」はコロンビアのSSW/パーカッショニスト/ギタリストのラリ・デ・ラ・オズ(Lali de la Hoz)をフィーチュア。
(7)「Distancias No Separan」はフラメンコ歌手ミゲル・ロセンド(Miguel Rosendo)が歌うスパニッシュな楽曲。彼は日本を代表するフラメンコ集団、小松原庸子舞踏団にも所属していたようだ。イスラエル出身のエヤル・ヘラー(Eyal Heller)によるフラメンコ・ギターも素晴らしい。
(8)「Descalços」はアンゴラ共和国出身のウィルダー・アマド(Wilder Amado)によるポルトガル語のヴォーカルが今作随一の美しさ(アンゴラはポルトガル語を公用語とする数少ないアフリカの国のひとつ)。
ここではアフロ・ブラジル音楽を思わせるゆったりと流れるような曲調のなか、ウィルダー・アマドの穏やかな声が優しく響く。
前曲に続きピンハス&サンズ(Pinhas & Sons)のベーシスト、リオール・オゼリ(Lior Ozeri)が弾くフレットレス・ベースも印象的だ。
どこから聴いてもハイクオリティで楽しい、最高のラテン・ミュージックの作品がイスラエルから現れた。どの曲もアルバムのハイライトになり得る。
オメル・クリンゲル略歴
オメル・クリンゲル(Omer Kringel)はイスラエル南部のキブツ(イスラエル特有の農業中心の共同体)に生まれ、6歳から作曲を続けてきた。影響を受けたのはシューマン、ブラームス、メルセデス・ソーサ、スティーヴィー・ワンダー、Hip-Hop、キューバ、カリビアン、タンゴなど。
今作『Okan Project』は彼の人生の5年の歳月を費やし、総計5週間におよぶレコーディングによって完成した。そして、その結果は“完璧で最高”だ。