イスファール・サラブスキ、待望のソロデビュー作
アゼルバイジャンの若手No.1ジャズピアニスト/作曲家、イスファール・サラブスキ(Isfar Sarabski)が、ついに個人名義のファースト・アルバム『Planet』をリリースした。
今作ではベースにアラン・ハンプトン(Alan Hampton)、ドラムスにマーク・ジュリアナ(Mark Guiliana)といういずれも米国出身の名手を迎え、さらに数曲でアゼルバイジャンの盟友タール奏者のシャフリヤール・イマノフ(Shahriyar Imanov)とメイン弦楽アンサンブル(Main Strings Ensemble)が参加。解像度の高いリズムや独特の旋律、緻密で壮大なアレンジなど、他に類を見ない音楽を紡ぐ。これは西洋と東洋をつなぐ地のユニークな音楽文化に育まれた、現代に生きる若い音楽家の感性が爆発した傑出した作品だ。
アルバムはほぼ全曲がオリジナルで、(1)「Deja Vu」から楽曲そのもののアレンジや構成力に驚かされる。技術的に凄い演奏であれば他にも多々あるが、ここまで技術と個性を両立し、さらに映像的な物語まで感じさせる演奏は他になかなかない。
(3)「Swan Lake」はチャイコフスキーの“白鳥の湖”。7/8拍子を交えるなど大胆なアレンジが施されており、おそらくここまでアヴァンギャルドな「白鳥の湖」は誰も聴いたことがないと思う。その熱量は楽曲後半にかけてさらに加速し、原曲の優雅な雰囲気を彼方に吹き飛ばすトリオの三位一体の演奏が繰り広げられる。
(6)「The Edge」ではこれまでも度々共演しているタール奏者のシャフリヤール・イマノフが参加。
タイトル曲である「Planet」はソロピアノの(7)、ストリングス・アンサンブルも交えた(10)で2度演奏される。これが悲壮なテーマを持つ美しい名曲で、このアルバムの映像的な印象を深く刻みつける。先行シングルでもある(10)「Planet」のみ、サーシャ・マシン(Sasha Mashin, ds)、マカル・ノヴィコフ(Makar Novikov, b)というロシアの若手を迎えて録音されている。
イスファール・サラブスキはアゼルバイジャンの首都バクーに1989年に生まれた。アラブ世界の巨匠オペラ歌手/作曲家のフセイングル・サラブスキ(Huseyngulu Sarabski, 1879 – 1945)を曾祖父に持つ音楽一家に生まれ育ち、幼少期から豊かな音楽に囲まれていたという。レコード・コレクターでもあった父のコレクションにはソビエト連邦崩壊(アゼルバイジャンはソ連崩壊直前の1991年8月に独立)とともに西側諸国の膨大な作品も流れ込み、特にハービー・ハンコック、マイルス・デイヴィス、ビル・エヴァンス、ディジー・ガレスピーといった音楽家の存在はイスファール少年にも大きな影響をもたらした。
4歳の頃に最初の楽器(カシオのキーボードだったという)を与えられたイスファールは、16歳の頃には既に国内で有望な音楽家として知られはじめ、さらにはノルウェーやロシアでも演奏をするようになる。バクー音楽アカデミーを卒業後は奨学金を得て米国のバークリー音楽大学に進学。ヴァギフ・ムスタファ・ザデを始祖とする“ムガームジャズ”の系譜を継ぐ個性的な音楽性で2009年に19歳でモントルー・ジャズフェスティヴァルのピアノ・コンペティションで優勝、クインシー・ジョーンズからも絶賛された。
翌2010年にはアゼルバイジャン共和国の名誉ある芸術家にも選出されている。
アゼルバイジャンの伝統音楽であるムガームに影響されたアコースティック音楽のみならず、エレクトロミュージックとジャズの融合を試みるなど多様な音楽性が魅力。2019年にワーナー・ミュージックと契約、今作はその初のリリースとなる。
Isfar Sarabski – piano
Alan Hampton – double bass, electric bass
Mark Guiliana – drums
Main Strings Ensemble – strings
Shahriyar Imanov – tar (6, 9)
Baku Strings Quartet – strings (9)
Sasha Mashin – drums (10)
Makar Novikov – double bass (10)