イブラヒム・マーロフが思い出の教会で静かに奏でる、かつて子供だった大人のためのクリスマス曲集

Ibrahim Maalouf - First Noel

思い出の教会で聖歌隊とともに演奏される25+αのクリスマスソング

フランスのトランペッター、イブラヒム・マーロフ(Ibrahim Maalouf)が初のクリスマス曲集『First Noel』をリリースした。今作にはクリスマスのスタンダード曲25曲と、イブラヒムが書き下ろしたオリジナル3曲の計28曲が収録されており、柔らかな音色のトランペットと控えめなギター、ピアノ、それに8人のクワイアで厳かに演奏される。多くの人にとって子供時代の特別な記憶であるクリスマスの日の気持ちがあたたかく蘇るような、素晴らしいアルバムだ。

(21)「Light a Candle in the Chapel」

ビル・エヴァンスも愛した(10)「Santa Claus Is Coming to Town」や(11)「Winter Wonderland」、(12)「Silent Night」といった子どもの頃から多くの人が慣れ親しんだ楽曲から、グノーの(9)「Ave Maria」、シューベルトの(18)「Ave Maria」といったクラシック、さらにはマライア・キャリーの大ヒット(19)「All I Want for Christmas Is You」、ルイ・アームストロングの(20)「What a Wonderful World」といった名曲の数々が静かに演奏され、とても心の落ち着く音楽になっている。

(20)「What a Wonderful World」のMVはパリにあるオルセー美術館、オランジュリー美術館で撮影されている。

イブラヒム・マーロフといえば微分音だが、今作はクリスマスソングということもあってかほぼ微分音は登場しないので、イブラヒムのアルバムと思って聴くと肩透かしを喰らってしまうかもしれない。それでもシリアの伝統曲(25)「Shubho Lhaw Qolo」にはしっかりと微分音の旋律が用いられており、ファンとしては嬉しい。

今作はイブラヒム・マーロフの息子ノエルの初めてのクリスマスと、今年99歳で亡くなった祖母オデットに捧げられている。大半の楽曲はパリのサン・ジュリアン・ル・ポーヴル教会(Saint-Julien-le-Pauvre)で録音されているが、この教会はイブラヒムの父ナシム(微分音トランペットの開発者でもある)が若い頃に聖具係として働いていた場所であり、叔母や祖母の葬儀もこの場所で行われたというイブラヒムと彼の家族にとっては思い出深く非常に重要な場所とのこと。

いまやクリスマスというものは国や人種、宗教の違いに関係なく、多くの人にとって特別な思い出のあるイベントだ。歴史ある教会で静かに祈るようなトランペットで歌い上げられる素晴らしい演奏。今作だけは、世界中を見回しても唯一無二の“微分音トランペッター”としての肩書きにとらわれず、純粋にクリスマスを祝う一人の市民としてのイブラヒム・マーロフの演奏にじっくりと耳を傾けたい。

Ibrahim Maalouf – trumpet
Frank Woeste – piano
François Delporte – guitar

Choirs :
Sofi Jeannin – director
Anne-Laure Hulin
Elisabeth Gilbert
Marie-Cécile Hébert
Valentine Jacquet
Rebecca Moeller
Charlotte Bozzi
Thaïs Raï-Westphal
Clémence Vidal

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