UKジャズの震源地・Tomorrow’s Warriors発。Blue Noteも認めた若き才能、Blue Lab Beatsの新たな実験

ドラムマシーンによる打ち込みと生演奏の融合。JAZZでもHipHopでもない新たなスタンダード。

2022年2月25日、ロバート・グラスパー(Robert Glasper)の最新作「Black Radio Ⅲ」の発表に湧き立つ裏で、もう一つシーンにおいて重要な作品がリリースされていたことをご存知だろうか。
2021年にBlue Note と契約後、EPやプロジェクト作を経て、初のメジャー作となったブルー・ラブ・ビーツ(Blue Lab Beats)『Motherland Jorney』は、その名の通り、彼らの音の実験室に迷い込んだような、ジャンルの垣根を超えたビートに満ち溢れていた。

本作を語る前に、まずは彼らがどんなアーティストなのかを説明しなければならないだろう。

ビートメイカー、プロデューサーのNK-OKことナマリ・クワテン(Namali Kwaten)と、マルチ奏者のMr DMことデヴィッド・ムラクポル(David Mrakpor)によるプロダクションデュオ、ブルー・ラブ・ビーツ(Blue Lab Beats、以下BLB)。

スパイク・リー監督の89年作「ドゥ・ザ・ライト・シング(Do the right thing)」に影響を受けたという独特の髪型と青い髪がトレードマークのNK-OKは、90年代のUKアシッドジャズムーヴメントで名を馳せたグループ、D・インフルエンス(D’Influence)のサックス奏者、クワメ・クワテン(Kwame Kwaten)を父に持つ、まさにUKジャズシーンの正統なる後継者。ドラムマシーンをまるで本物のドラムセットのように扱うテクニックは見事としかいいようがない。
一方のMr DMはキーボードからベース、ヴィブラフォンまでどんな楽器も扱う才人。ジョー・アーモン・ジョーンズ(Joe Armon Jones)作品にベーシストとして参加しており、こちらもまたUKジャズシーンにおける重要人物だ。

いつまででも見てられるNK-OKのドラミング。彼のinstagramでは実際のドラムとセッションしている超絶動画も。

そして上述のジョー・アーモン・ジョーンズをはじめ、サラ・タンディ(Sarah Tandy)やヌバイア・ガルシア(Nubya Garcia)など、現行UKジャズの超重要アーティストが多数生まれる教育機関・トゥモロウズ・ウォリアーズ(Tomorrow’s Warriors)でメキメキと頭角を現わし、チャンスを掴んでいったのが、このBLBなのである。

(1)「Sky Reflections(Intro)」のスリリングなイントロから始まる本作は、(2)「Labels」でいきなり度肝を抜かれる。ラッパーのコフィ・ストーン(Kofi Stone)、シンガーのティアナ・メジャーナイン(Tiana Major9)と地元UKのアーティストを客演に迎えた本曲の”揺らぎ”はJディラ(J Dilla)を彷彿とさせるHipHopナンバー。しかし、HipHop作品にはならずに、しっかりJAZZとして成立しているあたりは、ロバート・グラスパーの影響がより強いのかもしれない。
プロデューサーチームであるBLBらしく、デビュー作『Xover』を筆頭に数多くのアーティストを客演とし迎えてきたBLBだが、インストナンバーでもその存在感が遺憾なく発揮されるのは、本作でも証明されている。(4)「Gotta Go Fast」で、ロンドンのトランペッター、ポピー・ダニエルズ(Poppy Daniels)のオーセンティックなトランペットの音色にセンス溢れるビートを重ねていく様はTomorrow’s Warriorsでジャムセッションを数多く重ねてきたBLBの真骨頂ともいえる。
そして昨今のUKジャズが国境やジャンルを超え、とりわけアフリカシーンとの繋がりが顕著に見られるように、BLBも「ジャズ・アフロトロニカ」「ジャフロビート」といった呼ばれ方でアフロビートを発信し続けているのも特筆したい。サックス奏者、カイディ・アキニビ(Kaidi Akinnibi)とNK-OKのプロジェクトである前作の『The Sound of Afrotronica』に引き続き、本作でもゲットー・ボーイ(Ghetto Boy)やキル・ビーツ(Killbeatz)といったアフリカのアーティストとコラボしているが、何と言ってもフェラ・クティ(Fela Kuti)の75年作「Everything Scatter」のボーカルをそのまま使ったタイトル曲(10)「Motherland Jorney」が本作のハイライトだ。心地よいアフロビートとカイディとポピーによるホーンセクションの掛け合いが素晴らしく、彼らの、そしてUKジャズの今を示してくれている。

HipHopアーティストからJAZZへのアプローチや、JAZZアーティストからHipHopへのアプローチは今までも多く存在してきた。
しかし、UKならではのグライムシーンの影響も受けてきたビートメイカー・NK-OKと、UKジャズシーンを生音で支えてきたMr DMのように、双方向からアプローチをしサウンドクリエイトしてきたアーティストはそうはいないのではないだろうか。

JAZZでもHipHopでもない新たなスタンダードは、今まさにこの時にも彼らのラボで生まれ続けているに違いない。

プロフィール

D・インフルエンスのクワメ・クワテンの息子でありプロデューサー/ビートメイカーのNK-OKことナマリ・クワテンと、マルチ奏者のMr DMことデヴィッド・ムラクポルによるユニット。

2013年に北ロンドンを拠点として結成され、2016年に初の作品「Blue Skies」をリリース。
2017年には2nd EP「Freedom」をリリースし、2018年に待望の1stアルバム『Xover』を発表。モーゼス・ボイドやヌバイア・ガルシアなど気鋭のミュージシャンが参加し、ジャズとソウルなどあらゆるジャンルを独自のビートに昇華させたサウンドは大きな話題を呼んだ。
2019年には2ndアルバム『Voyage』をリリース。サンパ・ザ・グレイトなどがゲストで参加し、ジャズとクラブ・サウンドを融合させた音楽性を更に進化させた。
2020年にはブルーノートの名曲たちを現在のUKジャズ最高峰のミュージシャンが再解釈したアルバム『ブルーノート・リイマジンド』への参加でも話題となった。
2021年には名門ブルーノートと契約を果たし、5月にEP「We Will Rise」をリリースした。

トム・ミッシュ、ジョルジャ・スミス、エズラ・コレクティヴ、シャバカ・ハッチングス、ヌバイア・ガルシアなど多くのアーティストが世界的に活躍し隆盛を極める現在のUKジャズ・シーンの中でも最注目の存在。(Universal Music 公式より)

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