鬼才ティグラン・ハマシアン、独創的な解釈で魅せる初のスタンダード曲集

Tigran Hamasyan - StandArt

ティグラン・ハマシアン、初のスタンダード曲集

アルメニアの伝統音楽やプログレッシヴ・ロック、さらにはメタルをジャズの語法の持ち込んだピアニスト/作曲家/編曲家のティグラン・ハマシアン(Tigran Hamasyan)の新譜『StandArt』は、これまでとは趣向を変えたカヴァー曲集となった。

今作は“アメリカン・スタンダード”をテーマに、1920〜1950年代に生まれたスタンダードを独特の感性でアレンジし演奏。
ピアノトリオ編成を基本とし、ダブルベースにマット・ブリューワー(Matt Brewer)、ドラムスにジャスティン・ブラウン(Justin Brown)という布陣。さらにサックス奏者のマーク・ターナー(Mark Turner)とジョシュア・レッドマン(Joshua Redman)、トランペット奏者のアンブローズ・アキンムシーレ(Ambrose Akinmusire)がそれぞれゲストで参戦している。

(1)「De-Dah」

バンドの4人による即興的なオリジナル(8)「Invasion During an Operetta」を除き、すべてがジャズのスタンダードである。これまで個性的なオリジナルを数多く発表しその度にファンの度肝を抜いてきたティグランだが、やはりスタンダードと呼ばれる楽曲の調理法も極めて独創的なものだった。彼のアレンジはリズムやハーモニーをかなりの高解像度で分解・再構築しているが、奇を衒ったアレンジにありがちな原曲を壊しすぎて何が何だか分からないものではなく、ぎりぎりのバランスを保っている。そこにさりげなくアルメニアらしいフレージングなども織り込み、アウトプットされた演奏は“ティグラン・ハマシアン”そのものとしか言い表せられない世界観に。
ほぼ100%アコースティックな演奏のため、一聴した感じ従来の彼の作品のファンにとっては物足りなさも感じるかも知れないが、よく聴くとメタルやプログレの要素がぶち込まれまくった(6)「Softly, as in a Morning Sunrise」など、相当に尖った解釈がされていてめちゃくちゃ楽しい。

(3)「All the Things You Are」

かつてアフリカから連れてこられた人々やその子孫たちが苦しみながらジャズの中に自らのアイデンティティを求め、試行錯誤を繰り返しながらその音楽を文化として代々発展させてきたように、ティグランもまたジャズの語法を用いてアルメニアの音楽を世界に浸透させてきた。
今作を聴いていると、ジャズとは単なる即興の方法論やハーモニーの組み立て方などではなく、演奏者自身の価値観や伝えたいことを乗せるための表現のプラットフォームなのだということを強く感じる。

Tigran Hamasyan – piano
Matt Brewer – acoustic bass
Justin Brown – drums

Guests :
Mark Turner – tenor saxophone (3)
Joshua Redman – tenor saxophone (4)
Ambrose Akinmusire – trumpet (7, 8)

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