ヴァイオリン奏者アプールヴァ・クリシュナの世界デビュー作
南インドの古典音楽(カルナーティック音楽)に精通し、ジャズやフラメンコ、ラテンといった様々な音楽へと発展的融合を試みるヴァイオリニスト/作曲家アプールヴァ・クリシュナ(Apoorva Krishna)の『Intuition』は驚きに満ちた作品だ。コンテンポラリー・ジャズと南インド音楽の融合と一言で片付けてしまうにはあまりに軽く、彼女がさまざまな音楽的実験を経て辿り着いた成果を斬新で心地よいリスナー体験にまで昇華させ届けてくれる大傑作となっている。彼女の音楽は本質的に探究心に満ちており、だからこそ深みがあり素晴らしい。
アルバムには8曲が収録されているが、全ての曲が異なる編成となっている。バラエティは驚くほど豊かでそれぞれがアイディアに満ちている。
(4)「Merging Parallels」では複雑な拍子の上で西洋音楽のスケールとインドの古典的なラーガを同時並行的にシフトさせる試みをおこなっている。稀代のヴォーカリスト、ヴァリジャシュリー・ヴェヌゴパル(Varijashree Venugopal)の歌唱とシンクロするヴァイオリンも圧巻で、にわかには信じ難い音楽体験となる。
(7)「Valencia」はスペインのフラメンコを楽曲構成のベースに始まるが、後半ではインド古典音楽に見られるリズムが現れるなど複雑ながら耳馴染みも良く面白い。
(5)「Tinky Winky」は現代的なフュージョン。サックス2本とバスクラリネット、ピアノ、エレクトリックベース、ドラムスの編成の中で、クリシュナのヴァイオリンは唯一インド的だが、音楽を共通言語として互いを受け入れ混ざり合う喜びの根幹を感じさせる。
プエルトリコの伝説的トロンボーン奏者、ウィリアム・セペーダ(William Cepeda)と共作共演した(2)「Transcend」にはラテンジャズの血が流れ、カリフォルニアのチェロ奏者アーロン・シンクレア(Aaron Sinclair)とのデュオ(3)「Blossom」では西洋古典音楽とインド古典音楽の会話を楽しめる。
アルバムタイトルは「直感」だが、感性の赴くままに世界を広げ、同時に高度な演奏技術や音楽理論を身につけていったアプールヴァ・クリシュナという若き才能を紹介するには最高のアルバムだ。
Apoorva Krishna プロフィール
アプールヴァ・クリシュナは1992年に米国ニュージャージー州に生まれ、小学校6年生のときにインドに移住している。
インドではラルグディ・スリマティ(Lalgudi Srimathi)とアヌラダ・スリダール(Anuradha Sridhar)に師事しカルナーティック音楽を習熟。その後ボストンのバークリー音楽大学で学び、世界中の優れた音楽家から刺激を受けその創造性をより豊かなものにしていった。
2017年にロンドン・タリシオ・トラストのヤング・アーティスト賞を受賞し、インド人として初めて助成を受け、古典的なデビューアルバム『Apoorva Thillanas』は高く評価された。これまでにジョン・マクラフリン(John McLaughlin)、ザキール・フセイン(Zakir Hussain)、シャンカール・マハデヴァン(Shankar Mahadevan)、ボンベイ・ジャヤスリ(Bombay Jayashri)といった巨匠とも共演している。