イブラヒム・マアルーフ＆アンジェリーク・キジョーによる新作
レバノン生まれのトランペット奏者イブラヒム・マアルーフ（Ibrahim Maalouf）と、ベナン出身の歌手アンジェリーク・キジョー（Angelique Kidjo）は、ともに現在のワールドミュージックシーンのカリスマだ。現在フランス・パリを活動の拠点とする二人が、初めてのデュオアルバムとなる『Queen of Sheba』をリリースした。
今作は旧約聖書のシバの女王とソロモン王の物語に触発されている。イスラエルの王ソロモンの知恵の噂を聞きつけたアフリカの女王シバが多くの従者と宝物を携えエルサレムを訪れたという、あの有名な物語だ。シバの女王がソロモンに問いかけた7つのなぞなぞをテーマに、アンジェリーク・キジョーがヨルバ語の詞を書き、イブラヒム・マアルーフが作編曲をした。
エキサイティングな10拍子の(1)「Ahan」から、アンジェリーク・キジョーの力強いヴォーカルとイブラヒム・マアルーフのアラビックなトランペットの絡み合いが素晴らしい。(2)「Eyin」なども明らかに曲風はイブラヒム・マアルーフの作風なのだが、3連符のリズムなどはかなりアフリカの音楽を意識して作られており、シバの女王とソロモン王の邂逅のようにアフリカと中東の親密な交わりを感じさせる。
咽び泣くような歌とトランペットが印象的な抒情詩(3)「Omije」は、アフリカ出身の歌手と中東出身のトランペッターの渾身作の魅力を最も端的に表している。
アルバムにはバンドのほか、イブラヒム・マアルーフ自身が指揮する64人のオーケストラも参加。
今年のグローバル・ミュージック、ジャズのシーンでの最注目作品となることは間違いなさそうだ。
Ibrahim Maalouf 略歴
イブラヒム・マアルーフ（「イブラヒム・マーロフ」表記が定着しているが、発音は「マアルーフ」に近い）はレバノンの首都ベイルートに1980年に生まれた。
叔父は『アイデンティティが人を殺す』などで知られる作家のアミン・マアルーフ。
父親がトランペッター、母親がピアニストという家庭に育った彼はレバノン内戦中に家族とともにパリに移住し、7歳の頃からトランペットでクラシック音楽やアラブ音楽を学んだ。
イブラヒムが用いるトランペットは父ナシム・マアルーフ（Nassim Maalouf）が開発した4本のバルブを持つ特殊な楽器で、アラブ音楽で使われる微分音を表現することができる。イブラヒムの音楽は常に西洋的なポップ感覚、高度なジャズの即興、そしてトランペットには一見似つかわしくないアラブ音楽を武器に、瞬く間にフランス、そして世界のスタープレイヤーとなった。
Angelique Kidjo 略歴
これまでにグラミー賞を5回受賞し、ベナン、ひいてはアフリカ大陸を代表する歌手であるアンジェリーク・キジョーは1960年生まれ。最近では東京オリンピック2020の開会式で登場したことも記憶に新しい。フォン語、フランス語、ヨルバ語、ゲン語（ミナ語）、英語の5つの言語に堪能で、それら全ての言語で歌を歌っている。
ヨルバとベナンの伝統音楽、ミリアム・マケバ、ヒュー・マセケラ、ジェームス・ブラウン、マヌ・ディバンゴ、オーティス・レディング、ジミ・ヘンドリックス、フェラ・クティ、スティーヴィー・ワンダー、サンタナなどが彼女の音楽の影響源。ベナンでの政治的対立が続き、母国で独立したアーティストでいることが難しくなり、1983年にパリに移住している。
Angélique Kidjo – voice
Ibrahim Maalouf – trumpets, piano
Francois Delporte – electric guitar, acoustic guitar
Mohamed Derouich – acoustic guitar
Stéphane Galland – drums
Magatte Sow – percussions
Zachary Ostroff – bass guitar
Frank Woeste – Fender Rhodes
Orchestra (Casco Philharmonic) :
Conductor – Ibrahim Maalouf
Orchestra manager – Thibault Mortegoute
Violin –
Cyril Baleton, Martin Blondeau, Lison Favard, Akémi Fillon, David Galoustov, Anne Gravoin, Marie-Alix Grenier, Sarah Khavand, Mathilde Klein, Abigel Kralik, Pauline Lavacry, Manon Phillipe Laude, Arnaud Pieniezny, Nikola Nikolov
Viola –
Julien Gaben, Tess Joly, Clara Lefèvre, Béatrice Nachin, Mathis Rochat, Eva Sinclair
Cello –
Adrien Bellom, Charbel Charbel, Sophie Chauvenet, Eric-Maria Couturier, Johann Lamarre
Double bass –
Etienne Durantel, Edouard Macarez, Blanche Stromboni
Choirs –
Sankofa Unit
Audrey Audel, Noémie Bouskila, Chloé Bretenstein, Laura Jacquin Celini, Yann Morgan Colonette, Adeline Crouard, Adam Garnit, Magdalen Geffrard, Sarah Griche, Yasmine Hafa, Dorian Kateb, Claudia Lacerda, Agathe Leclercq, Katia Mevil, Cédric Randrianaly, Marc Antoine Scialom, Joby Smith, Jennifer Thevenot, Emma Scialom