チェロで繋ぐ世界の音楽。ヨーヨー・マ、各国から多彩なゲストを迎えた新譜

Yo-Yo-Ma - Notes for the Future

世界中のアーティストと共演。ヨーヨー・マの新譜は多様性の宝庫

もう半世紀近く名実ともに世界最高のチェリストと称えられながら、今でもジャンルを超えた野心的なプロジェクトで新しい音楽を聴かせてくれるのがヨーヨー・マ(Yo-Yo Ma)という音楽家だ。2021年9月にリリースされた新譜『Notes for the Future』では世界中から多様なゲストを迎え、あらゆる言語の歌で平和を願い、世界を繋ぐ。

アルバムは近年多くのチェリストがレパートリーとしている、アフリカ系アメリカ人の作曲家コールリッジ=テイラー・パーキンソン(Coleridge-Taylor Perkinson)によって書かれた(1)「Lamentations, “Black/Folk Song Suite”: III. Calvary Ostinato」で幕を開ける。ピチカート(指弾き)でブルーノートやポルタメント(音程を滑らかに変える奏法)を多用したブルージーなチェロ独奏は、優雅にクラシックを演奏する一般的なヨーヨー・マのイメージからはほど遠く、今作が古典的な作品ではないことを強く印象づける。

(2)「Honor Song」を力強く歌うのはカナダの先住民族の研究家であり、文化の保護活動を行う歌手/作曲家/パフォーマーのジェレミー・ダッチャー(Jeremy Dutcher)。大地に祈るように深く響くヨーヨー・マのチェロは時に打楽器のような強いアタックを伴い、人類共通のプリミティヴな魂を呼び起こす。

(3)「Doorway」ではジェンダー・ノンコンフォーミングのナイジェリア系米国人歌手トゥンデ・オラニラン(Tunde Olaniran)と共演。

東京オリンピックの開会式でアフリカ大陸代表として「Imagine」の歌唱に参加したことも記憶に新しいアンジェリーク・キジョー(Angelique Kidjo)は(4)「Blewu」でヨーヨー・マと共演している。

アンジェリーク・キジョーとの共演曲(4)「Blewu」

(5)「Ha’oud (I Will Return)」にはアラブ世界に文化的な革新をもたらすレバノンの人気バンド、マシュロウ・レイラ(Mashrou’ Leila)と、イラク系カナダ人のラッパー、ナルシー(Narcy)が登場。音楽が持つ力を証明し続けてきたマシュロウ・レイラとのこのコラボレーションは間違いなく今作のハイライトだろう。

スペイン・カタルーニャの伝統歌(6)「El Cant dels Ocells (Song of the Birds)」(鳥の歌)はジャズトランペッター/歌手として活躍するアンドレア・モティス(Andrea Motis)との共演。ジャズや南米音楽を爛漫に歌うイメージが強いアンドレア・モティスの新たな一面だ。

続く(7)「La Sandunga」はメキシコの伝統歌。ポップスからトラディショナルまで幅広く活躍するベテラン歌手リラ・ダウンズ(Lila Downs)の情感豊かな歌唱が素晴らしい。

(8)「Thank You」は台湾の原住民パイワン族のシンガーソングライターであるアバオ(ABAO, 阿爆, 阿仍仍)の大ヒット曲で、台湾の2020年の年度楽曲賞受賞曲。ゴスペル調の原曲の雰囲気も残しつつ、チェロの表現力によってより荘厳になったアレンジも必聴だ。

ラストの(9)「Te Whakaroha Nui」はオーストラリアのSSWマーロン・ウィリアムス(Marlon Williams)の楽曲で、マオリ語の歌は悠久の時の流れを感じさせる。

このように、今作に参加するアーティストは皆異なる文化的背景を持っている。世界36ヶ国のコンサートホール以外の空間で演奏する“バッハプロジェクト”から派生したという音楽的にも多様な今作には、ヨーヨー・マという音楽家が思い描く理想の未来の世界が凝縮されているようだ。

ヨーヨー・マ 略歴

ヨーヨー・マは中国人の両親(父親は中国寧波出身でオーケストラ指揮者/作曲家、母親や香港出身の声楽家)のもと、1955年にフランスのパリで生まれた。7歳の時に家族とともにアメリカ合衆国ニューヨークに移住。チェロは4歳から始めており、7歳の頃には既にはジョン・F・ケネディの前で演奏、8歳でレナード・バーンスタインが行ったコンサートに出演するなど注目を集めてきた世界的チェリストだ。
ジュリアード音楽院ではチェロの偉人レナード・ローズに「もう君に教えられることは何もない」と言わしめ、ハーバード大学では音楽ではなく人類学を専攻した。卒業後の1977年からプロとして本格的な活動を開始している。

愛用するチェロはモンタニャーナ(“ペチュニア”というニックネームが付けられている)の1733年製の楽器と、ジャクリーヌ・デュ・プレの死後にマに引き継がれた1712年製のストラディバリウス“ダヴィドフ”。

特にバッハの「無伴奏チェロ組曲」を何度も録音するなどクラシック音楽を得意としているが、それに留まらずアルゼンチンタンゴやブラジル音楽、“シルクロード・プロジェクト”と呼ばれる民族楽器アンサンブルなど、ジャンルを超越した世界中のミュージシャンとのコラボレーションを通じてチェロの可能性を飛躍的に広げてきた。

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