スピリチュアルなインディアン・スロウ・ソウルの新たな旗手、Raveena

Raveena - Asha’s Awakening

インディアン・スロウ・ソウルの新たな旗手、ラヴィーナ

1970年代にいち早く欧米の音楽シーンに呼応し、かつ出自であるインドの伝統音楽を持ち込もうとした伝説的な歌手がいた。インド・ムンバイの平均的なヒンズー教の家庭に生まれ、英語を話すカトリックの学校に通っていたアシャ・プスリ(Asha Puthli, 1945 – )は幼い頃からインドの伝統的な音楽とオペラを学び、大学卒業後はブリティッシュ・エアウェイズの客室乗務員(CA)として働いたが、研修で過ごしたロンドンや休暇を過ごしたアメリカでジャズへの想いを強くしCAを退職、NYに引っ越し、オーディションを受けコロンビアレコードと契約。1973年にセルフタイトルのデビュー作『Asha Puthli』をリリースすると瞬く間にアメリカやヨーロッパで人気を博した。

彼女はジャズやファンク、ディスコ、ロックといった要素を含む楽曲を繊細で透明感のある歌声で歌い上げた。欧米の著名人やメディアによって「アレサ・フランクリンがラーガと出会ったよう」、「エラ・フィッツジェラルドやディー・ディー・ブリッジウォーターと並ぶ女性ジャズシンガー」といった高い評価を受けたが、デビューから僅か10年程度を主要な活動期間とした彼女の存在がどの程度音楽愛好家の記憶の中にとどめられたかは、音楽の歴史の教科書が示す通りだ。

その後も数多くの音楽家たちが西洋の音楽とインドの音楽を結びつけようとしてきたものの、今日に至るまで一種のイロモノ以上の地位を勝ち得ていないのが実際のところではないだろうか。原因として、あまりにもそれらは音楽の根本的な捉え方が違い過ぎるのかもしれない。

Raveena 『Asha’s Awakening』

米国生まれながら、インドにルーツをもつ歌姫ラヴィーナ(Raveena)はメジャーデビュー作のタイトルを 『Asha’s Awakening』とした。この物語の主人公アシャのモデルはアシャ・プスリだ。
今作は遥か遠く古代のパンジャーブの宇宙王女が、数世紀に渡る旅を通じた愛と喪失を経て、その後の癒しと破壊について学ぶというコンセプトを具現化している。要所にインドの古典的な楽器のサウンドを用い、ラヴィーナは英語とヒンディー語の歌で人々の意識の深淵に潜むなにかを覚醒させようとする。

(10)「Asha’s Kiss」にはアシャ・プスリ本人をフィーチュアしている。

間奏曲(8)「The Internet Is Like Eating Plastic(インターネットはプラスチックを食べているようなもの)」は彼女が主張したい根幹だろう。インターネットとそれに安易に接続できるスマートフォンといった端末やSNSといったコミュニティを通じて、人々は自らの考えを深める前に他者のノイズの影響を受けることが一般的となってしまった。

この作品がいっときの昂まりの産物であるか、それても永劫の真理を捉えたものであるかの判断は難しい。それでもルーツを誇り、自信に満ちた彼女の音楽からは確かな喜びやヴァイブスが感じられる。

(2)「Secret」

ラヴィーナは単に南アジアの文化的遺産に賛同するだけのアーティストではない。
南アジアのサウンドの多くが西側の大衆文化にすでに完全に組み込まれ、利用されていることを認識しつつも、敢えて自らをその表現の中心に置き、これまでにない波を起こそうとする文化の革新者なのだ。

ラスト、13分間に及ぶ(15)「Let Your Breath Become a Flower」はマインドフルネスへとリスナーを誘う。この作品は未来への過渡期である現在に起こる様々な内面・外面のコンフリクトを和らげ、意識の拡散を収束させ、あるべき場所に正そうとする。

Raveena - Asha’s Awakening
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