イスラエル・ハイブリッド・ポップの新たな道標
イスラエルのバンド、ピンハス・アンド・サンズ(Pinhas & Sons)が、同国を代表するシンガーソングライター、アロン・エデル(Alon Eder)と共演したライヴ音源とヴィデオをリリースした。
これは2022年7月に行われた共演ライヴの模様を収録したもので、今回はアロン・エデルの代表曲3曲が公開されている。確かな音楽的素養と類稀なポップセンスを持つこの2組の共演は、ハイブリッドな現行イスラエル音楽シーンでも重要なマイルストーンとなるだろう。
Pinhas & Sonsのリーダー、オフェル・ピンハス(Ofer Pinhas)によるとアロン・エデルとの共演の話は実は以前も何度か話し合われていたが、なかなか実現しなかったという。今回、Zappa Tel-Avivというステージの周りを観客が取り囲むような構造の会場でPinhas & Sonsがライヴを行うことになり、アロン・エデル側も360度のコンサートを作りたいという想いが一致し共演に至った。
本稿では各曲の紹介と、アーティストのプロフィール、そして最後には今回のライヴ音源とアロン・エデルの原曲をまとめたプレイリストを紹介する。
①「בראש המשורר」
最初に公開された「בראש המשורר(詩人の頭)」はアロン・エデルの2017年のアルバム『השמרנים שוב באופנה』に収録されていた楽曲。原曲もストリングスのアレンジが美しいが、ここではPinhas & Sonsのリーダー、オフェル・ピンハスによる更なる緻密なアレンジが施され、とんでもなく素晴らしい演奏となっている。
②「קצת אהבה לא תזיק」
「קצת אהבה לא תזיק(ちょっとの愛なら傷もつかない)」はアロン・エデルというSSWの存在をイスラエルのみならず日本含む世界に知らしめた名曲だ。オリジナルは2014年作『סיכום החיים עד עכשיו(Summary of Life So Far)』に収録されている。
原曲のシンプルなリズムを基本としながらも、流石Pinhas & Sonsというべきか、コーラスのアレンジなど随所に工夫を凝らしたアレンジと圧巻のアンサンブルを展開する。ヴォーカルは主にアロン・エデルとノア・カラダヴィドが担い、その絡みも最高に美しい。
③「כמה שאלות על גברת היי-טק」
「כמה שאלות על גברת היי-טק(Ms.ハイテクについてのちょっとした質問)」は2012年のEP『קסיו מטונף(Dirty Cassio)』収録の前2曲に比べるとあまり知られていない曲で、ライヴで披露されるのも今回が初めてのようだ。カシオのキーボードで作られたこのEPは社会的なメッセージを含むもので、アロン・エデルのデビュー作と比べると異質なものと捉えられている。
今回のライヴでも原曲を踏襲するように電子ドラムの音で始まるが、進行するにつれてPinhas & Sonsらしいアレンジが爆発。オフェル・ピンハス自身も最も気に入ったという演奏に仕上がった。
Pinhas & Sons にとっても今回のアロン・エデルとの共演は大きな経験を得たものとなったようだ。今回の共演について、オフェル・ピンハスは次のように語っている。
Ofer Pinhas アロン・エデルの曲作りとコンサート用の曲のアレンジに没頭して、初めて僕は本当にアロンを発見したと言える。彼の音楽はとても有機的で美的な感じがする一方で、その裏側ではほとんど全てのハーモニーやメロディーのルールを破っているのだから、僕にとってもとてもスリリングで学びの多い経験だったよ。
Alon Eder プロフィール
SSWのアロン・エデル(ヘブライ語:אלון עדר)は1983年生まれ。父親はリモン音楽学校の設立にも関わったギタリストのイェフダ・エデル(Yehuda Eder)、母親は女優のミキ・カム(Miki Kam)。
子供の頃からカシオのキーボードで作曲や録音を始め、2011年に自作曲によるセルフタイトルのアルバム『אלון עדר』でデビューし、イスラエル国内の各メディアで年間ベストアルバムに選出されるなどヒット。「ちょっとの愛なら傷もつかない」を収録した2014年作『סיכום החיים עד עכשיו』はさらに大ヒットし、日本でも国内盤が発売された。
1970年代のイスラエルのプログレッシヴ・ロックの影響を大きく受けた作風で、緻密なアレンジが施されながらも柔らかでキャッチーなメロディーが非常に印象的なアーティストだ。
Pinhas & Sons プロフィール
リーダーでキーボーディストのオフェル・ピンハス(Ofer Pinhas)を中心に結成されたPinhas & Sons(ヘブライ語:פנחס ובניו)は、プログレやジャズ、中東音楽、ブラジル音楽などの様々な音楽的要素を複雑に絡めながらも聴きやすいポップスに仕上げるイスラエルの10人程度の編成のバンド。これまでにシュロモ・グロニフ(Shlomo Gronich)、SHIRAN、エステル・ラダ(Ester Rada)、ガイ・マジグ(Guy Mazig)といった同国を代表する音楽家たちと共演。代表作は2018年の2ndアルバム『מדובר באלבום』。
当サイトではバンドの結成経緯や影響を受けた音楽家などについてのインタビュー記事も掲載している。
Playlist
今回それぞれシングルとしてリリースされたライヴ音源3曲と、それらのアロン・エデルのオリジナルをまとめたプレイリストを作成・公開したので、ぜひ原曲とも聴き比べながら楽しんでいただきたい。
Alon Eder – keyboard, guitar, vocal
Noa Karadavid – vocal
Ofer Pinhas – keyboard, vocal
Eddie Reznik – violin
Daniel Tanchelson – viola, vocal
Jonathan Hadas – clarinet
Barak Sober – flute
Barak Srour – guitar
Lior Ozeri – bass
Sharon Petrover – drums
Matan Arbel – percussion