現代ジャズギター最高峰、ヨタム・シルバースタイン新譜は南米音楽への深い情熱が生んだ傑作

Yotam Silberstein - Universos

ジャズと南米音楽への情熱が生んだ現代ジャズギター注目作

イスラエル出身のギタリスト/作曲家ヨタム・シルバースタイン(Yotam Silberstein)の新作『Universos』は、近年の彼の作品の傾向に漏れず南米音楽への愛が詰め込まれた楽しい作品だ。ブラジルのピアニストのヴィトール・ゴンサウヴェス(Vitor Gonçalves)と、アヴィシャイ・コーエン・トリオでの参加で知られる同郷イスラエル出身のドラマー、ダニエル・ドール(Daniel Dor)とのトリオを中心に、ヨタムはエレクトリック・ギターやガットギターでジャズと南米音楽の折衷である多様な音楽を自演。現代NYのシーンで最も注目されるジャズ・ギタリストとしての技巧はもちろん、伝統音楽への深い理解の表れた音楽性豊かな作曲家としての才能を存分に発揮している。

(1)「Brooklyn Frevo」はブラジル北東部の伝統的な舞踊音楽“フレーヴォ”をモチーフに、タイトルにブルックリンとは付くもののほぼブラジル人の感性で作られたような快活で少しのサウダーヂを含ませた曲構成と演奏が素晴らしい。ゲストのヴァレリオ・フィーリョ(Valerio Filho)のパンデイロのグルーヴと、イタイ・クリス(Itai Kriss)のフルートも軽やかなショーロの感覚を増幅させる。

非常に丁寧に作曲・アレンジされた佳曲(2)「Dada」、軽快なサンバ・ジャズ(3)「Samba pro Vitor」などヨタム・シルバースタインの真面目で職人気質な人柄が伝わってくるような楽曲/演奏が続く。伝統音楽へのリスペクトが随所に感じられるのも、この中東出身のギタリストが南米の音楽家たちからも愛されている要因だろう。

(3)「Samba pro Vitor」。ヨタムはソリッドギターで厚みのある音色を鳴らす。

ガットギターで厳かに演奏されるのは(4)「Requiem for Armando」。アルマンドとは、おそらくは2021年に逝去したジャズの巨匠チック・コリア(本名:アルマンド・アンソニー・コリア)のことだろう。

(6)「Parana (Entre Rios)」。パラナとはブラジル、パラグアイ、アルゼンチン、ウルグアイを流れる大河だ。

ウルグアイ・カンドンベの巨匠ルベン・ラダへと捧げた(7)「Candombe para Ruben Rada」では、2020年にデュオ作を出したカルロス・アギーレ(Carlos Aguirre)がパーカッションで参加。陽気なリズムの中で、ギターのヨタムも鍵盤のヴィトール・ゴンサウヴェスもソロでもバッキングでもかなり繊細なことをやっていて面白い。

ラストの(11)「Tal and Gil」にはスイス生まれのクロマチック・ハーモニカ奏者グレグア・マレ(Gregoire Maret)をフィーチュア。ダニエル・ドールのドラムスも、ヨタムのエレクトリック・ギターの音色も温かく、心が休まるような名演を聴かせてくれる。

演奏者のクレジットを見ると弦ベース奏者はおらず、ほぼ全編で聞こえるグルーヴィーなベースラインはヴィトール・ゴンサウヴェスが弾くシンセベースのようだ。

Yotam Silberstein プロフィール

ヨタム・シルバースタイン(Yotam Silberstein)はイスラエル・テルアビブの出身で、ギターは10歳の頃から始めている。21歳の頃に「イスラエル・ジャズ・プレイヤー・オブ・ジ・イヤー」の栄誉に輝き、その後すぐにイタリアのウンブリア・ジャズ・フェスティバルにも出場。デビュー作『The Arrival』(2003年)は絶賛され、一躍現代ジャズ・ギターの注目株となった。

2005年にセロニアス・モンク・ギター・コンペティションでファイナリストとなり奨学金を得て米国ニュースクールに入学。その後はニューヨークを拠点に活動し、様々なスタイルのジャズを演奏してきた。
2010年以降はエグベルト・ジスモンチやエルメート・パスコアールなどの南米音楽に深く傾倒。アンドレ・メマーリやカルロス・アギーレといったブラジルやアルゼンチンを代表する音楽家たちとの交流を重ねている。

Yotam Silberstein – acoustic guitar, electric guitar, nylon strings guitar (4, 6, 9), glockenspiel (4, 9), electric mandolin (10)
Vitor Gonçalves – accordion (8), Fender Rhodes (4, 5, 7), keyboard (1, 3, 9), piano (2, 4, 6, 9, 10), synth bass (1-5, 7, 8, 10, 11) Wurlitzer (11)
Daniel Dor – drums, percussions

Guests :
Carlos Aguirre, percussions (7)
Valerio Filho – pandeiro (1, 3)
Itai Kriss – flute (1), alto flute (8)
Grégoire Maret – harmonica (11)

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