2019年コンペ優勝者エフゲニー・ポボシーのデビュー作『Elements For Peace』
2019年のハービー・ハンコック・コンペティション(Herbie Hancock Institute of Jazz International Guitar Competition)で優勝し、一躍注目のジャズ・ギタリストとなったロシア出身のエフゲニー・ポボシー(Evgeny Pobozhiy)による待望の初リーダー作『Elements For Peace』が登場した。
平和への痛切な想いを乗せた本作には彼のオリジナル曲7曲とカヴァー2曲を収録。ドラムスのアントニオ・サンチェス(Antonio Sanchez)、ピアノのアーロン・パークス(Aaron Parks)といった現代NYジャズシーンの実力者たちを迎えたクインテットでそのギター・テクニックだけではない叙情性、現代性などが随所で発揮され、相当に聴き応えのある作品に仕上がっている。愛娘に宛てた(3)「Song for My Daughter」、妻に捧げる(7)「Alina」といった個人的な愛情を深く感じさせる楽曲も素晴らしく、困難に直面する時代の中で人間らしく文化的な生き方とは何かを哲学的に探るようでもある。
ウェイン・ショーター作曲(5)「Infant Eyes」の再解釈や、イングランド出身のバンド、デペッシュ・モード(Depeche Mode)のヒット曲(4)「Enjoy the Silence」のジャズロック風カヴァーも趣向が凝らされており楽しい。エフゲニーのギターは実に色彩感豊かで、低域から高域まで縦横無尽に絶え間なく動き回るソロは圧巻の連続だ。
コンペティションでの輝かしい優勝から、このデビュー作までの道のりは長かった。
当初は2019年にアルバムの録音を完了する予定で、ロシア出身のジャズの巨匠たち──アントン・ダヴィアンツ(Anton Davidyants, b)、ヴァレリー・ステパノフ(Valeriy Stepanov, p)、ゲルゴ・ボルライ(Gergo Borlai, ds)といった共演者に声がかけられていたが、最終的には全く違う米国の音楽家たちと作り上げられた。楽曲自体も数年前からステージで演奏してきた曲が収録されており、新世代の天才ギタリストのお披露目としては申し分のない結果となった。
この作品はロシア国内外で待ち望まれていたものだ。
平和への声なき想いを音楽に乗せて、エフゲニー・ポボシーの国境のない旅がいよいよ始まった。
Evgeny Pobozhiy 略歴
エフゲニー・ポボシー(ロシア語表記:Евгения Побожего)はロシア連邦トムスク州セヴェルスクで生まれた。9歳でクラシックギターを始め、ロストフ国立音楽院でジャズを学び、ロシアを代表するジャズ・ミュージシャンであるサックス奏者のイゴール・バットマン(Igor Butman)の目に留まり、彼のクインテットと、バットマンが率いるモスクワ・ジャズ・オーケストラに参加。
2019年にニューヨークで開催されたハービー・ハンコック・コンペティションのギター部門でロシア人として初の優勝者となり、国際的なシーンで注目を浴びる存在となった。
2020年、エフゲニーとイゴール・バットマンは、国際ジャズデー・バーチャル・グローバルコンサートにロシア代表として参加した。
ジャズ、ファンク、プログレ、ヒップホップ、ワールド、現代音楽といったジャンルの境界を感じさせない演奏が特徴的で、ジャズ・ギターの未来を担う逸材と評されている。
Evgeny Pobozhiy – guitar
Ben Wendel – saxophone
Aaron Parks – piano
Matt Brewer – bass
Antonio Sanchez – drums