アンダーソン・パークに見出されたエレクトロデュオ、DOMi & JD BECKのデビュー作『Not TiGHT』

前回のグラミー主要4部門を受賞したブルーノ・マーズ(Bruno Mars)アンダーソン・パーク(Anderson .Paak)のスーパーデュオ、シルク・ソニック(Silk Sonic)。ちょうど昨年の今頃、本サイトでも取り上げた彼らの作品『An Evening With Silk Sonic』の楽曲「Skate」に参加した才能溢れる若者が、アンダーソン・パークが主宰するレーベル、エイプシット・インク(APESHIT Inc.)から今年デビューを果たした。キーボードのドミ (DOMi LOUNA)と、ドラムスのJD・ベック (JD BECK)による2人組ユニット、DOMi & JD BECK。そのあどけない見た目とは裏腹な大人びたサウンドと超絶テクニックでアンダーソン・パークのみならず、ハービー・ハンコック(Herbie Hancock)ロバート・グラスパー(Robert Glasper)からも熱い視線を浴びる22歳と19歳の若きアーティストのデビュー作『Not TiGHT』。これを聴けば錚々たるレジェンド達が何故ここまで彼らをフックアップするのかがきっとわかるはずだ。

全体を形作るドミの品のあるキーボードとJDの超絶ドラム

アルバムを通して、まずはドミのキーボードを中心としたエレクトロジャズというのが真っ先に耳に飛び込んでくる。インスト曲とボーカル曲が半々で、いずれも息を飲むほどに美しい音楽を堪能することができる。しかし、これだけだと極々普通のチルアウトミュージックに過ぎない。DOMi & JD BECKの大きな違い、それはJDのドラミングにあると言っていいだろう。
(2)「WHATSUP」(3)「SMiLE」は静かな展開からドラムブレイクがスイッチとなって転調、展開されていくし、表題曲(5)「NOT TiGHT」はもはやタイトルと真逆のタイトでスリリングなドラムが全編を通して鳴り響いている。JDのドラムがスパイスとなり、ジャムセッションのような緊迫感が生み出す。これが本作の基本方程式である。
なお、ジャムセッションという点で言うとジャズギタリストのカート・ローゼンウィンケル(Kurt Rosenwinkel)を招いた(13)「WHOA」はギター、キーボード、ドラムが渾然一体となった屈指のジャムセッションであり、本作のハイライトと言ってもいいのではないだろうか。
また、(7)「U DON’T HAVE TO ME」では2人のボーカルも収録されている。抑えの効いたこれまた品のあるサウンドに仕上がっており、今後の作品では彼らのボーカル曲をもう少し聴いてみたいというのが率直な意見だ。

JD・ベックのドラミングの凄さがわかる動画。オーディエンス、演者ともに思わず笑っちゃうくらいの凄さ。必見です。

脇を固める超豪華アーティスト達

本作には多数の大物アーティストが参加しているのも見どころの一つだ。
カナダのSSW、マック・デマルコ(Mac DeMarco)を迎えた(6)「TWO SHRiMPS」は美しいボーカルが入るとこれほどまでに楽曲の表情が変わるのかという好例だろう。サンダーキャット(Thundercat)を迎えた(4)「BOWLiNG」もまた然りで、客演ボーカルの参加は作品に確かな幅を生み出している。
アンダーソン・パークが参加した(10)「TAKE A CHANCE」は美しいR&Bナンバー。同様に(12)「PiLOT」はスヌープ・ドッグ(Snoop Dogg)バスタ・ライムス(Busta Rhymes)まで!アンダーソンパーク人脈によるものなのかもしれないが、彼らの音楽的ルーツにHipHopやR&Bが存在していることを感じることが出来る。
そしてやはり目玉はハービー・ハンコック参加による(8)「MOON」だろう。ここでは大ベテランであるハービーのヴォコーダーを用いた少しひねくれた鍵盤に対して、バランスを取るかのようにまっすぐなDOMiのキーボードを堪能することができる。

マック・デマルコ、サンダーキャット、アンダーソンパークも出演する(3)SMiLEのMV。JDとDOMiも自然体でまさにファミリーという雰囲気。

既に次のグラミーの最優秀新人賞(Best New Artist)と最優秀コンテンポラリーインストゥルメンタルアルバム賞(Best Contemporary Instrumental Album)にノミネートされているDOMi & JD BECKおよび本作。

来年2月の発表まで、是非この名前を覚えていておいて欲しい。

プロフィール

キーボードのドミ (DOMi LOUNA)と、ドラムスのJD・ベック (JD BECK)による2人組ユニット。
2000年にフランスで生まれたドミは3歳でピアノとドラムスの演奏を始めた。フランス国立高等音楽院を卒業後、ボストンのバークリー音楽大学に入学した。一方JD・ベックは2003年にテキサス州ダラスで生まれ、10歳からドラムの演奏活動を、12歳でプロデューサーとしてのキャリアをスタートさせた。

2人が初めて出会ったのは、2018年にロバート・シーライト(スナ―キー・パピー、ゴースト・ノート)に招かれて出演したNAMMショーだった。その後2人はエリカ・バドゥのバースデー・パーティで共演し、以降デュオとして定期的にプレイするようになる。SNSをきっかけに彼らの演奏は即座に高い評判を呼び、ハービー・ハンコック、アンダーソン・パークやサンダーキャット、フライング・ロータス、ルイス・コール、ザ・ルーツなど名だたるアーティストと共演。中でも2020年のAdult Swim Festivalでアリアナ・グランデ、サンダーキャットとプレイした「Them Changes」や、ブルーノ・マーズ&アンダーソン・パークによるシルク・ソニックのシングル「Skate」を共作したことは大きな話題を呼んだ。

2022年には、アンダーソン・パークがユニバーサルミュージックと新たに立ち上げたレーベル、エイプシット・インク(APESHIT Inc.)と名門ブルーノート・レコードと契約し、4月29日に超待望となるデビュー・シングルをリリース。(Universal Music公式より)

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