エレクトロ×エレクトロが生み出す新たなソウルミュージック。不思議な高揚感に包まれるプロデューサーデュオによる快作

新型コロナウイルスの影響で日程を延期しての開催となった2022年グラミー賞。王者ブルーノ・マーズ(Bruno Mars)率いるシルク・ソニック(Silk Sonic)が主要部門で強さを見せる中、ジョン・バティース(Jon Batiste)の最多5部門受賞がサプライズを起こしたのは記憶に新しいのではないだろうか。最優秀アルバム賞に輝いた『We are』の楽曲「Sing」を共作・プロデュースしたのが、ザック・クーパー(Zach Cooper)ヴィック・ディモツィス (Vic Dimotsis)のプロデューサーデュオ、キング・ガービッジ(King Garbage)。彼らは同グラミー賞にノミネートされたリオン・ブリッジズ(Leon Bridges)の楽曲「Sweeter」でもペンを執る、まさに今後のアメリカン・ソウルを牽引していくと言っても過言ではないアーティストだ。

King Garbageが参加した Jon Batiste 「Sing」。ジョン・バティース(ジョン・バティステ)がただテンション高い人じゃないことを教えてくれた深みのある1曲。

予測不能のサウンドメイキングが詰まった最新作

そんなKing Garbageが発表した5年ぶりの2ndアルバム『Heavy Metal Greasy Loveが素晴らしいクリエイティビティを放っている。一聴してソウルフィーリング溢れる作品ながらも、その音作りは従来のソウルやR&Bと違った驚きに満ちている。

短尺の(1)「Checkmate」で幕を開ける本作。
ジャジーなホーンと心地よいビートで酔わせた勢いそのままに(2)「Let Em Talk」に突入。ビックバンドジャズ的なドラムブレイクと、フランスの鬼才FKJを思わせるウィスパーボイスが聴く者の予測を裏切り続ける。
浮遊感のあるインタールード(3)「I Miss Mistakes」を挟み、(4)「Snow」ではまたしてもヒップホップ並みに重いビートが鳴り響く。そしてここでもまた違和感がクセになる変則的なドラミングが繰り広げられ、作品は展開していく。(5)「Busy On A Saturday Night」は本作からのシングルカット。力の抜け感が心地よい、スタイルカウンシルを思わせる優しいジャジーナンバーだが、MVはまったく意味不明。様々なメディアで「実験的」「コンテンポラリー」と形容されるKing Garbageのスタイルはここでもブレることはない。

(5)「Busy On A Saturday Night」のMV。音に全くにつかない前衛的な仕上がり。


(トラック違いではあるが) 文字通りの”モンスタートラック”(6)「Monster Truck」では鬼気迫るピアノ、(7)「Never Die」ではバックに流れるトレモロと、およそソウルミュージックではあまり耳にしない音が流れるのも非常に興味深い。そうかと思えば、最終盤(8)「Piper」(9)「Peanuts Butter Kisses」と古き良き60〜70年代のアメリカンソウルで幕を閉じる本作は、全編を通して、いい意味で期待や予測を裏切り続ける36分の至福の時間を提供してくれる。

“ヒップホップソウル”を筆頭に、ダンスミュージックとの接近に寄って生まれた”EDM”、ロックなどの影響により生まれたweekndによる”オルタナティブR&B”など、ソウルミュージックは様々な音楽を吸収しながら形を変えてきた音楽でもある。
元々ソロで活動していたザックとヴィッツ。エレクトロを出自とした彼らが、もしかしたら新たなソウルミュージックの旗手となる日もそう遠くないのかもしれない。

Zach Cooperのソロ作品「Mind」(『The Sentense』より)。日本的な精神性がエレクトロで表現されている。

プロフィール

米・ノースカロライナ州アッシュヴィル出身、ザック・クーパーとヴィック・ディモツィスによるプロジェクト。2017年に『メイク・イット・スウェット』でアルバム・デビュー。ザ・ウィークエンドやSZA、トラヴィス・スコット、エリ―・ゴールディング、リッキー・リード、ジョン・バティステらと精力的にコラボレーションを展開。また、グラミー賞にプロデューサーとしてノミネート経験も持つ。2022年に2ndアルバム『ヘヴィ・メタル・グリーシー・ラヴ』をリリース。(Tower Record アーティストプロフィールより)

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