ネクストKing of Popが見せた渾身のSoulアルバム

「いいものはいい」。ヒットチャートでも評価される現代版Soulの大傑作。

音楽をレコメンドする者として、ここだけはブレたくないと常々思う。
「いいものはいい」
とかく、ライターを生業とする者はヒットチャートやポピュラーなものを否定するきらいがある。
それがライターとしての矜持だと言わんばかりに。
確かにヒットチャートに載る楽曲が玉石混合なのは事実である。
自分がDJであり、ヒットチャートにある程度親しんでいるということもある。
しかし、そういったことを抜きにしても、本サイトを愛し、信頼してくれている読者には聞いてほしい作品。
それが本作である。

ソウルフルなイントロ(1)に続き、2曲目から2022年グラミー「最優秀レコード賞」、「最優秀楽曲賞」含む4部門にノミネートされる甘美なソウルナンバー「Leave The Door Open」で幕を開ける本作。あまりにも有名なこの楽曲から全体的に美しいソウルバラード中心かと思いきや、キラキラと輝くBruno流Soulがジェットコースターのようにアップダウンを繰り返していく。

(2) 「Leave The Door Open」

(3)「Fly As Me」では、相方のアンダーソン・パーク(Anderson Paak)がラップで現代風にアップデートしながらも、バックのサウンドは完全に70年代FUNK仕様。 (4)「After Last Night」ではPファンクの生みの親・レジェンドのブーツィ・コリンズ(Bootsy Colins)と、現代ソウルの旗手サンダーキャット(Thundercat)がそろい踏みで奏でるミドルバラード。続く(5)「Smokin Out The Window」は90年代~00年代のアッシャー(Usher)を思わせるような美しく狂おしいR&Bナンバー。(6)「Put On A Smile」はダイアナ&マーヴィン(Diana & Marvin)の名曲『You Are Everything』調の格式高いバラードと、バラードだけをとっても一つとして同じ表情はない。

(5)「Smokin Out The Window」

その後も(7)「777」では一瞬レッドホットチリペッパーズ(Red Hot Chili Peppers)かと聞き間違えるようなミクスチャーファンクを、(8)「Skate」はどこまでものびやかなPOPを響かせ、そして最終曲(9)「Blast Off」で本作は大団円を迎える。

(8)「Skate」

歌いたいものを歌いたいだけ歌う。共感するブルーノ・マーズの哲学

しかし、ふと疑問に思う。
TikTokのように楽曲が量産されては消費されていくこの時代に、なぜブルーノ・マーズ(Bruno Mars)のSoulは支持されるのか。
それはポーズとしてのSoulではなく、心からBrunoがSoulを愛しているからだろう。
Brunoの歌からは歌う喜びが溢れているの伸びやかな歌声や力強いシャウトはもちろん、その力強い感情はどんな楽曲もキャッチーでPOPなものに昇華し、聴くものを引きずり込んでしまう。SNSの台頭による共感マーケティングの時代ともいわれる現代において、それは強い共感となり、Brunoは全世界的に支持されているのである。
そしてそれはまた同様にずば抜けた歌唱力と力強い感情を武器に、MTVの出現によるミュージックビデオの流れに乗ってポピュリズムを獲得したの「King of Pop」マイケル・ジャクソン(Michael Jackson)と同じであり、現代の「King of Pop」Bruno Marsには今以上に歌に乗せて、音楽の素晴らしさを世に広めてもらいたいと切に願う。

Anderson PaakとMark Ronsonの存在

Brunoについて語ってきたが、Silk Sonicを語るうえでは、Anderson Paakの存在は無視できない。
といいながらも、本作までAnderson Paakの存在を知らなかったというのが正直なところだ。
ドラマーでラッパー、シンガーといったマルチアーティストのAnderson Paak。
2016年に発表した2ndアルバム『Malibu』でグラミー賞を獲得している実力者ながら、
本作で知ったという人は自分だけではないはずだ。
それもそのはず。過去作ではどちらかというとラッパーとしての存在が前面に出ており、改めて過去作を聞いても、個人的には正直そこまで強いインパクトを感じることは出来なかった。
そんなAnderson Paakの音楽性が変わったのが2019年の作品『Ventura』である。
詳しくは本稿では割愛するが、シンガーとしての存在を前面に押し出した本作は、Anderson Paakを新境地に連れて行ったといっていい。
そしてこの時、Anderson Paakはプロデューサーのマーク・ロンソン(Mark Ronson)とのコラボ楽曲をリリースしている。

Mark Ronsonといえば、Brunoをフィーチャリングした『Uptown Funk』が有名なプロデューサー/DJ。2010年作の『Bang Bang Bang』をはじめ、レトロな音源をポップに再解釈・再構築させることに関して右に出るものがない彼の影響があったのではないかと想像すると、合点がいく。
2015年の『Uptown Funk』の後、BrunoもまたFunkやNew Jack Swingなどの音楽性を前面に押し出した名盤『24K Magic』を発表しているからだ。

グラミー賞を計11部門受賞している “音楽界の至宝” ブルーノ・マーズと、グラミー賞を計3部門受賞しているアンダーソン・パークが生み出したスーパープロジェクト、シルク・ソニック (Silk Sonic)。
その背景にある、Mark Ronsonの存在とBrunoの類まれなる才能、そしてAnderson Paakとの邂逅。
2015年の『Uptown Funk』から動き始めた歯車は、2022年2月1日のグラミー賞の発表でついに完結する。

An Everything With Silk Sonic
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