イタロ・カルヴィーノ名作『見えない都市』に触発。レバノン発の傑作Jazz『Villes invisibles』

Toufic Farroukh - Villes invisibles

レバノン出身サックス奏者の2017年の傑作『Villes invisibles』

レバノン出身・フランス在住のサックス奏者/作曲家トゥーフィック・ファルーク(Toufic Farroukh)の2017年作『Villes invisibles』は、ヨーロッパの洗練されたジャズと、アラブ〜中東音楽の民族音楽が高いレベルで融合した最高に楽しい作品だ。一部には南米音楽のエッセンスも加わる。

今作は作曲をトゥーフィック・ファルークが担当、アレンジの大部分はピアニストのレアンドロ・アコンチャ(Leandro Aconcha)が担当。アルバムのコンセプトはイタリアの小説家イタロ・カルヴィーノ(Italo Calvino, 1923 – 1985)の1972年出版の幻想小説『見えない都市(Invisible Cities)』にインスパイアされており、モンゴルの皇帝フビライ・ハンの寵臣となったマルコ・ポーロが報告する架空の都市の物語と同様にどこか抽象的な音楽が展開される。この世界のどこかにありそうで、どの場所にもなかった音楽。アフマド・アル・ハティーブ(Ahmad Al Khatib)が弾くウードはアラブ感を強調するし、ディディエ・イツルサリ(Didier Ithursarry)のアコーディオンにはミュゼットの華やかさとタンゴの哀愁が漂う。

中東音楽に始まり、リスナーが気づかないうちにいつの間にかブラジルまで飛んでいるような不思議な感覚に陥る(3)「Rio de Cairo」は特に秀逸だ。レバノン系ブラジル人女性ヴォーカリスト、ナイマ・ヤズベク(Naima Yazbek)が前半はポルトガル語、後半はスキャットを披露するこの曲は多彩な展開もふくめ今作のハイライトで、必聴レベルの名曲・名演。

(3)「Rio de Cairo」

奇妙なワルツ(4)「V.S.A. (Villes-sur-Auzon)」も素晴らしい。ソロもバッキングでもセンス抜群のベース・プレイを聴かせるマルク・ビュロンフォッセ(Marc Buronfosse)など、知られざる名手の演奏に触れられるのも嬉しい。

(4)「V.S.A. (Villes-sur-Auzon)」

(7)「Angela」はルーマニアの古い伝統歌を元にアレンジが加えられたもの。わちゃわちゃした舞曲感にわくわくする。ライヴではオーケストラ編成でも演奏されているようで、この楽しさをぜひ動画で確認してほしい。

(7)「Angela」のオーケストラ編成でのライヴ演奏(アルバム収録バージョンとは別音源)。

(8)「Miss Understood」はもう、洒落の効いた曲名のセンスが最高です。
レアンドロ・アコンチャのソロピアノで演奏される(9)「Le cerisier d’automne」からの(10)「Lady Moon」の畳み掛ける短調の流れもたまらなく、抒情的なヨーロッパ・ジャズを好む方には刺さるだろう。

Toufic Farroukh 略歴

トゥーフィック・ファルークは1958年レバノン生まれ。同年代のレバノンの重要な作曲家/ピアニストのジアド・ラーバニ(Ziad Rahabani)との長年のコラボレーションで知られている。

幼い頃に兄弟の影響でサックスを始め、音楽大学で学ぶためにベイルートからフランス・パリに移住し、その後はフランスで作曲家/演奏家として自身の作品や映画音楽の分野で活躍。1994年に『Ali On Broadway』でデビューし、1998年の2nd『Little Secrets』、2002年の3rd『Drab Zeen』は全世界で40,000枚以上の売上を記録し国際シーンでのブレイクを果たした。

Toufic Farroukh – soprano saxophone, tenor saxophone, alto saxophone
Leandro Aconcha – piano, electric piano
Didier Ithursarry – accordion
Marc Buronfosse – bass
Luc Isenmann – drums
Frédéric Favarel – guitar
Ahmad Al Khatib – oud
Bachar Khalifé – percussion
Naima Yazbek – vocals (3)

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