イスラエル・プログレの知られざるバンドSusita、唯一のアルバムで魅せた圧巻・衝撃の音楽性

Susita - סוסיתא

個性的かつ高度な音楽性を持ったイスラエルのバンド、Susita

イスラエルのバンド、スシータ(Susita, ヘブライ語表記:סוסיתא)が2005年にリリースしたアルバム『סוסיתא』が素晴らしい。

Susitaはシンガー/マルチ奏者のメイロン・エガー(Meiron Egger, מירון אגר)と鍵盤奏者ナダフ・ヴィキンスキー(Nadav Vikinski, נדב ויקינסקי)を中心にリモン音楽学校の学生たちによって2003年に結成されたバンドで、本作が唯一のアルバムとなっているが、これがとんでもなくクオリティが高く、驚きと興奮に満ちたものになっている。

ジャズやイスラエル/中東の伝統的な音楽を積極的に取り入れた個性的で音楽的にも高度な作風が非常に面白い。ジャンルとしてはプログレッシヴ・ロックやアート・ロックとして分類されがちだが、決してその範疇に留まらず、独創的な音楽を探求している。
バンドのメンバーは男女6名から成っている。ほとんどのメンバーが歌えコーラスに参加しており、演奏と即興のレベルも非常に高く、メイロン・エガー、ナダフ・ヴィキンスキー、そしてギタリストのロン・ヨナ(Ron Yona, רון יונה)が中心となって創る作編曲のセンスも素晴らしい。

驚くべき音楽的アイディアが続出する全15曲のデビュー作『סוסיתא』

アルバムは短いイントロデューシングを経て、次に披露される(2)「דבקה」からもう最高だ。
最初に紅一点のフルート奏者ナーマ・シャレフ(Naama Shalev, נעמה שלו)がアカペラで旋律を歌い、次に男声ヴォーカルが対旋律を、そしてピアノ、ベース、打楽器が雪崩れ込みコーラスも厚くなり、中盤からはメイロン・エガーによる熱いフルートのソロが展開される。後半の8小節ほどのアラブ・パーカッションのアンサンブルもエキサイティングだ。

(2)「דבקה」

つづく(3)「המדריך לריקודי עם」は今作を代表する1曲。
イスラエルの伝統音楽の影響を強く受け、メロディも独創的で楽しい作風だが、高度に洗練されており後半にかけて多彩になっていく構成も面白い。奇数系の変拍子も効果的に用いられ、楽曲構成の面でも非常に完成度の高い楽曲となっている。

変拍子も印象的な良曲(3)「המדריך לריקודי עם」

“群れ”を意味する(7)「עדרים」も面白い。
曲調の基盤になっているものはタイトなリズムのファンクだが、彼らの個性が加えられた楽曲展開は複雑で、西洋のロックに東欧音楽やヘブライの伝統音楽など様々な要素が柔軟に溶け込み絡み合い、全体としてとても濃密で聴き応えのある楽曲に仕上がっている。

楽曲の密度が非常に濃いイスラエル風ファンク(7)「עדרים」

アルバム全編を通してヴォーカルとフルートがアンサンブルの中で主要な役割を果たしている点では伝説的なバンド、シシェット(Sheshet)の唯一の作品でありイスラエル・プログレの名盤『ששת』(1977年)を想起させる。
そして同様にフルートを擁し、複雑で斬新でありながらもキャッチーで聴きやすいという点では2018年に大傑作アルバム『מדובר באלבום』をリリースした現在進行形のスーパーバンド、ピンハス&サンズ(Pinhas and Sons)の音楽性にも繋がっているように感じる。

収録曲はどれもアイディアに満ちており素晴らしい。アルバムジャケットのヒッピー感漂う感じも内容をよく表しているように思う。
約1時間の極めて濃密な音楽体験を約束できる、大傑作だ。

Susita 結成エピソードと、現在の活動状況

Susitaはメイロン・エガーがリモン音楽学校在学中に結成された。
当時のメイロン・エガーの楽曲はジャズにしては簡素すぎ、ポップスとしては複雑すぎると言われていたという。そんな迷いや葛藤のある中で彼は才能ある鍵盤奏者ナダフ・ヴィキンスキーと出会い、ヴォーカリストとしてバンドの創立に誘われた。
それから二人は一緒に曲を書き始めたが、当時はまだ自分自身を完全に発見できず、認められようと奮闘している2人の音楽家はともにそのその創作プロセスの中で「他の人とは書けない」と宣言するほどの自我闘争が芽生えていったという。
のちにナダフ・ヴィキンスキーはバンドを脱退。彼は舞台音楽の作曲家としてその後のキャリアを築き、バンドにはメイロン・エガーらと、ナダフが書いたいくつかの素晴らしいアイディアの楽曲が残された。

結局、Susitaはナダフ・ヴィキンスキー脱退後の2005年に唯一のアルバムである『סוסיתא』を録音しリリースしたが、その年末にバンドは解散。
2009年に再びメンバーが集い、2013年頃にはライヴも活性化させ、2枚目の作品のための録音を行うなどしたが、現時点でその作品のリリースには至っていないようだ。

その後2020年にメイロン・エガーとナダフ・ヴィキンスキーは再び互いの才能を求め再会し、1週間のミーティングを重ね、再びパートナーシップを取り戻した。
二人は新曲「בארבע ידיים」(曲名は「4つの手で」)を書き、向かい合ってキーボードを演奏する動画をYouTubeにアップし友情と再会を祝した。

メイロン・エガーとナダフ・ヴィキンスキーが久々に共作し2020年に発表した新曲「בארבע ידיים(4つの手で)」

そしてSusitaとしても2021年10月にデビューである本作をリマスタリングしストリーミング・サービス上で配信を開始するなど、新しい動きの兆しを見せてくれている。
現在、バンドは事実上の活動休止状態ではあるものの、この素晴らしい才能を持ったバンドを知ってしまったからには彼らの新作に期待したいところだ。

Susita (סוסיתא) :
Meiron Egger (מירון אגר) – vocals, flute, guitar, keyboards, accordion, percussion
Uri Dekal (אורי דקל) – piano, vocals
Ron Yona (רון יונה) – guitar, vocals
Naama Shalov (נעמה שלו) – flute, vocals
Aviram Kushnir (אבירם קושניר) – bass, vocals
Gil Eden (גיל אידן) – drums

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