アフロ・ブラジルとミナス、そしてワールド・ミュージックを繋ぐ打楽器奏者ジャッキ・ウィル新作

Jack Will - Black Buddha

Jack Will 新譜『Black Buddha』

ブラジルの打楽器奏者、ジャッキ・ウィル(Jack Will)の2022年新譜『Black Buddha』は、ミナス・ジェライス州の音楽の歴史を受け継ぎ、独自のエッセンスを加え、次世代に伝えようとする重要な作品だ。アルバムにはミナスを代表するギタリストのトニーニョ・オルタが1曲でゲスト参加しているほか、既に日本でも注目されている“ミナス新世代”の面々も参加している。

今作で驚かされるのは、収録曲のリズムや曲調の多様性だ。

(1)「Mantra Minazz」はミナス音楽に特有の爽やかさや浮遊感のあるコードや即興が、ゆったりと瞑想的なリズムに乗る様がなんとも不思議で新鮮。
つづく(2)「Fala Pra Xangô」はブルーノートを多用したコテコテのジャズ・ファンクだ。

ジュリア・ヒバス(Júlia Ribas)をゲスト・シンガーとして迎えた(3)「Menino Jesus」はレゲエのリズムに乗せたジュリアのスピリチュアルのヴォーカルと、幻想的な演奏が深く印象に刻まれる。バックの演奏者は例えばギタリストのフェリピ・ヴィラス・ボアス(Felipe Vilas Boas)が一瞬「Tico Tico no Fuba」のフレーズを引用するなど知的な遊び心の溢れるリラックスした演奏も面白い。

ゲスト歌手としてジュリア・ヒバスを迎えた(3)「Menino Jesus」

鍵盤奏者ディアンジェロ・シルヴァ(Deangelo Silva)の参加も特筆したい。
彼は既に日本でもブラジル・ミナス新世代を代表する音楽家として各所で絶賛され著名な存在となっているが、今作では自身の音楽ではあまり見せない多様性を存分に発揮している。今作では彼はアコースティック・ピアノではなくオルガンやエレクトリック・ピアノをメインで弾いており、ブラック・ミュージックからの大きな影響を惜しげもなく披露。曲名に反してサンバ要素は薄い(5)「É Samba Que Dhá」など、随所でソロ、バッキングともに大きな存在感を見せている。

(6)「Minas Sambando em Pernambuco」では半世紀にわたるミナスを代表する偉大なギタリストであるトニーニョ・オルタ(Toninho Horta)がゲスト参加。左チャンネルのフェリピ・ヴィラス・ボアスのギターとの掛け合いも最高に楽しく、トニーニョのイメージにぴったりとマッチした軽快なジャズ・サンバは本作のハイライトのひとつだろう。サックス奏者ブレーノ・メンドンサ(Breno Mendonça)のプレイも素晴らしい。

ラストの(7)「Templo Afro-Mineiro」は現行のミナス音楽シーンを支えるベーシスト、アロイジオ・オルタ(Aloízio Horta)がイントロから活躍する。ブレーノ・メンドンサのサックス、フェリピ・ヴィラス・ボアスのギターがそれぞれ旋律や即興ソロを担い、後半ではジュリア・ヒバスが極上の極上のスキャットを披露。濃密なアルバムを美しく締め括る。

Jack Will 略歴

ウィリアム・ヌネス・ボルジェス(William Nunes Borges)、通称・ジャッキ・ウィルは1988年生まれ。12歳のときにミナスの州立音楽院で音楽を学び始め、16歳で市内のナイトクラブでパーカッション奏者としてプロの活動を始めた。29歳でウベルランディア連邦大学(UFU)のパーカッションの学士号を取得している。

これまでにヴァグネル・チゾ(Wagner Tiso)、ジョアン・ドナート(João Donato)、パウロ・ジョビン(Paulo Jobim)ら国内外で著名なミュージシャンと共演。スタジオ・ミュージシャンとしてドラムスやパーカッション奏者として10枚以上のアルバムの録音に参加してきた。

今作はデイグリッソン・モンテイロ・ダ・シルヴァ(Deiglisson Monteiro Da Silva)との共作である(4)「Samba Cerrado」を除き、すべてジャッキ・ウィルの作曲となっている。

Felipe Vilas Boas – guitar
Deangelo Silva – keyboards
Aloízio Horta – bass
Breno Mendonça – saxophone
Jack Will – drums, percussion

Guests :
Júlia Ribas – vocals (3, 7)
Toninho Horta – guitar (6)

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