鬼才SSWアドリアーナ・カルカニョット、孤高の深淵と美学を感じさせる新作『Errante』

Adriana Calcanhotto - Errante

アドリアーナ・カルカニョット新譜『Errante』

ブラジルを代表する鬼才SSW、アドリアーナ・カルカニョット(Adriana Calcanhotto)の新譜『Errante』がリリースされた。人生や社会について鋭い視点で切り込むシリアスな作品が続いていた彼女だが、今作のジャケットには笑顔の写真が。だが、アルバムのタイトルは“徘徊”あるいは“放浪”の意味で、やはり今作も一筋縄ではいかない作品に仕上がっている。

ゆったりとしたサンバのリズムをベースに、ショッチ、マシシなどの北東部のリズム、さらにはレゲエやロックを巧みに取り入れている。収録曲はほとんどがマイナー調で、サウンドはダブルベースとヴィオラォン(ナイロン弦ギター)、パーカッションを主体に適度なエレクトロニックを用いるなど細部までこだわり抜かれている。独特の深みを感じさせる今作のテーマの中心に据えられているのは愛とその終わりまでのプロセス(いちゃつき、喪失、嘆き、内省)で、ブラジルのモダニズムの文化運動の最重要人物であるオズワルド・デ・アンドラーデ(Oswald de Andrade, 1890 – 1954)の有名な『Manifesto Antropófago』(1928年)やポルトガルの詩人ルイス・デ・カモンイス(Luís Vaz de Camões, 1524頃 – 1580)、さらには音楽仲間のジルベルト・ジル(Gilberto Gil, 1942 – )、ブラジルの画家であるリジア・クラーク(Lygia Clark, 1920 – 1988)のアート・インスタレーションなどから多様なインスピレーションを受け、ときに歌詞のなかで引用が行われている。

(8)「Reticências」

彼女の作品はいつもそうだが、アルバムの後半に行けば行くほど、その深淵な世界観に引き摺り込まれてゆく。柔らかな声や曲調の裏にある詩的で広がりのある風景。前作『Só』(2020年)はコロナ禍でリモートで制作が進められたが、今作はスタジオでのバンド演奏による録音にこだわり、より親密な雰囲気も表れている。

アルバム中唯一、英語詞で歌われる(6)「Lovely」

コアバンドは2011年のラテングラミーにノミネートされた傑作『O Micróbio do Samba』とまったく同じメンバーで、ベースにアルベルト・コンチネンチーノ(Alberto Continentino)、ギターにダヴィ・モラエス(Davi Moraes)、ドラムス/パーカッションにドメニコ・ランセロッチ(Domenico Lancellotti)。ここに控えめで繊細なアレンジが施されたホーン・セクションが加わる。
また、唯一の英語詞で歌われる(6)「Lovely」にはゲストとしてホドリゴ・アマランチ(Rodrigo Amarante)がマンドリンで参加している。

(2)「Larga Tudo」

MPBを代表するシンガーソングライター、Adriana Calcanhotto

アドリアーナ・カルカニョットは1965年ブラジル・リオグランデ・ド・スル州ポルトアレグレ生まれ。イタリア系の父親カルロス・カルカニョット(Carlos Calcanhotto, 姓のもともとの綴りは「Calcagnotto」だった)もミュージシャン、母親はブラジル人のダンサーだったという。

1984年にプロとしてのキャリアを開始し、1990年にカヴァー曲を中心とした最初のスタジオアルバム『Enguiço』をリリースしている。1992年には、ヒット曲「Mentiras」と「Esquadros」を含む『Senhas』がリリースされ、研ぎ澄まされた詩とヴォーカルで“女性版カエターノ・ヴェローゾ”と称させるなどMPB(ブラジルのポピュラー・ミュージック)を代表する存在となった。

Adriana Calcanhotto – acoustic guitar, vocal
Alberto Continentino – bass, piano, lyre
Davi Moraes – electric guitar, acoustic guitar
Domenico Lancellotti – drums, percussion
Diogo Gomes – trumpet
Jorge Continentino – woodwinds
Marlon Sette – trombone

Guest :
Rodrigo Amarante – mandolin (6)

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