ナイサム・ジャラル新作は入院生活を通じて求めた“癒しの儀式”
コンテンポラリー・ジャズやアラブ音楽、ヒップホップなど幅広い分野で活躍するフランス在住シリア系フルート奏者、ナイサム・ジャラル(Naïssam Jalal)の9枚目のアルバム『Healing Rituals』は、彼女が数週間の入院生活で過ごした時間の中からインスピレーションを得たという架空の癒しの儀式(= Healing Rituals)である。
彼女の“癒しの儀式”は、苦しむ肉体の醜さに抗って生きたいという願望のための次の3つの必須条件に応えようとする。ひとつめは状態に宥和するための沈黙、次に痛みや不安を忘れるためのトランス、そして精神が希望を見つけるために必要とする美しさ──。
ナイサム・ジャラルは、今作で深い精神的なつながりを持つ3人のミュージシャンとともに音楽を通じた癒しを探求する。アンサンブルには彼女のフルート/ネイのほか、コントラバスのクロード・チャミッチアン(Claude Tchamitchian)、チェロのクレモン・プティ(Clément Petit)、ドラムスにはブラジル出身のザザ・デシデリオ(Zaza Desiderio)が加わり、反復と即興を中心に演奏する。伝統と前衛が境界なく入り混じった音のつながりはどこまでも深淵に響くような印象を受ける。
チェロはときにウードのようだし、ドラムスも中東のパーカッションを模した表現を見せるなど地域性をも超えたアンサンブルが魅力的だ。もちろん、ナイサム・ジャラルのフルートやヴォイスもいつものように個性的で素晴らしい。
Naïssam Jalal プロフィール
ナイサム・ジャラルは1978年にシリア人の両親のもとフランス・パリで生まれた。6歳から音楽を学び、17歳の頃に即興演奏を開始し、ダマスカスのアラブ音楽高等研究所に留学し、そこでペルシャやトルコで広く演奏される横笛、ネイを学んだ。その後、彼女はエジプトのカイロに移り、偉大なヴァイオリニストのアブド・ダゲル(Abdo Dagher, 1936 – 2021)や鍵盤奏者/作曲家のファティ・サラマ(Fathi Salama, 1969 – )など、アラビア音楽の巨匠たちと共演。
フランスに戻ると、彼女はレバノンのラッパー、ワエル・クデ(Wael Koudaih a.k.a. Rayess Bek)とエジプトのウード奏者ハゼム・シャヒーン(Hazem Shaheen)のプロジェクトに同行。その後2009年、ウード/ギター奏者のヤン・ピタード(Yann Pittard)とのデュオで「Noun Ya」プロジェクトを開始しヨーロッパや中東、日本をツアーし、アルバム『Aux Résistances』をリリースした。
その後もさまざまなアーティストと共演を重ね、音楽文化の多様性において欠かせない存在として広く知られるようになってきている。
Naïssam Jalal – flute, nay, vocals, daf
Clément Petit – cello, backing vocals
Claude Tchamitchian – double bass
Zaza Desiderio – drums
曲目:
(1)「Rituel du vent」風の儀式
(2)「Rituel du soleil」太陽の儀式
(3)「Rituel des collines」丘の儀式
(4)「Rituel de la rivière」川の儀式
(5)「Rituel de la terre」大地の儀式
(6)「Rituel de la fôret」森の儀式
(7)「Rituel de la lune」月の儀式
(8)「Rituel de la brume」霧の儀式