アンドレ・メマーリのジャズトリオ新譜『Choros e Pianos』
近年クラシック絡みのプロジェクトが多くなっていたブラジルを代表するピアニストのアンドレ・メマーリ(André Mehmari)が、久々にジャズアルバムをリリースした。タイトルは『Choros e Pianos』。その名の通りブラジルのショーロに影響を受けたオリジナル曲集で、基本的にピアノトリオを軸とした編成の作品となっている。
アンドレ・メマーリはアコースティック・ピアノだけでなく、ローズピアノ、ウーリッツァー、クラビネット、ハモンドオルガンといった歴史的な名機も演奏。トリオ・コヘンチ(Trio Corrente)のドラマーとして知られるエドゥ・ヒベイロ(Edu Ribeiro, ds)、そしてソロやバンド他さまざまなプロジェクトのセッション・ベーシストとして活躍するチアゴ・エスピリト・サント(Thiago Espírito Santo, b)の鉄壁のサポートのもと、持ち前の歌心に溢れた流麗なピアノを惜しげもなく披露してくれる。さすがというべきか、即興を主体としていてもアルバムの完成度はやはり随一のものがある。
前半がローズピアノ、後半がグランドピアノで弾かれるジャズサンバ(1)「Maroto」から惹き込まれる。彼らしいメロディ、ハーモニー、グルーヴが一体となり、さらに機微な感情のニュアンスが表現された演奏が素晴らしい。
アルバムはショーロの計り知れない伝統との対話を謳う。
ローズピアノ、クラビネット、そして笛がオーバーダビングされた(5)「Jacaré」もアンドレ・メマーリらしい知的な遊び心を感じさせる曲だ。
タイトル曲(7)「Choros e Pianos」にはバンドリン奏者のファビオ・ペロン(Fábio Peron)が、そして(9)「Sopros e Suspiros」にはクラリネット奏者のアレ・ヒベイロ(Alê Ribeiro)が参加し華を添えている。やはりこうした楽器が加わるとよりショーロらしさが出てくるという印象で、アルバム全体のベクトルをさらにポジティヴなものにしている。
ラストの(14)「Choro pro Guinga」は過去作にも収録されていた曲の再演で、アンドレ・メマーリによるソロ演奏となっている。
相変わらず年間3枚以上という驚異的なペースでアルバムをリリースし続ける近年のアンドレ・メマーリ諸作の中でも、今作はもっともお薦めできる仕上がりだと思う。
André Mehmari プロフィール
アンドレ・メマーリ(André Mehmari)は1977年、リオデジャネイロ州の都市ニテロイにレバノン系の家系に生まれた。5歳から音楽を学び、10歳の頃から独学でジャズや即興音楽を学び、作曲も始めた。その頃から既にプロとしてピアノ、オルガンのコンサートに出演。15歳の頃には音楽院でオルガン、ピアノを教えるようになる。
サンパウロ大学(USP)で1990年に創立されたコンテスト「Prêmio Nascente」より1995年にポピュラー音楽作曲賞、1997年にクラシック音楽作曲賞を受賞。
ピアニストや作編曲家としてジャズ、クラシック、ポップスなどジャンルの垣根を越え高い評価を得ているが、自身の作品ではピアノ以外の楽器を演奏することも多く、ギター、ヴァイオリン、コントラバス、フルート、トランペット、ホルン、パーカッションなど多彩な楽器を自在に演奏するマルチ奏者でもある。また、ブラジル国内外の数多くの音楽家と共演しており、プロデューサーとしても優れた作品を数多くリリースしている。
代表作は『Canteiro』(2007年)など。
André Mehmari – piano, Rhodes, clavinet, Hammond organ, Wurlitzer, accordion, whistle, voice
Edu Ribeiro – drums
Thiago Espírito Santo – bass
Guests :
Alê Ribeiro – clarinet (9)
Fábio Peron – bandolim (7)