幅広い音楽の影響を強い個性で纏め上げた『Untamed Elegance』
アラブ、バルカン、ブラジルなど様々な音楽性が混淆するレバノン出身・フランス在住のジャズ・サックス奏者/作曲家トゥーフィック・ファルーク(Toufic Farroukh)の新譜『Untamed Elegance』は、期待を裏切らないワールド・ミュージック×ジャズの意欲作だ。彼の過去作でも重要な共演者であったピアノのレアンドロ・アコンチャ(Leandro Aconcha)をはじめ総勢20名近くの音楽家が参加し、ユニークで豊穣な音絵巻を作り上げている。
傑作と呼ぶに相応しい前作『Villes invisibles』から5年。“野放しのエレガンス”という題された今作では弦楽四重奏やトランペット、トロンボーン、ホルン、クラリネットなどの管楽器のサウンドがフィーチュアされ、クラシカルで洗練された室内楽的な色彩を強めている。こう書くと西洋クラシック音楽と親密なジャズかと思われそうだが、そう一筋縄ではいかないのが中東レバノンのアラブ文化で育ったトゥーフィック・ファルークなのだ。楽曲やアレンジには中東のエッセンスがこれでもかと盛り込まれ、さらにはアナトリア半島やバルカン半島、そして地理的には遠い距離にあるはずの南米音楽までもが顔を楽しげに覗かせる。音楽という本来自由であるはずのパレットの上で、文字通り自由に絵の具を混ぜ合わせ、他の誰にも予想のできなかった絵をキャンバスに描き上げるのだ──それも、驚くほどの精緻さで。
アルバムには伝統曲のアレンジや共作も含めてトゥーフィック・ファルークのオリジナルが16曲収録されているが、いくつかの曲にはその曲が捧げられた人物の名前が添えられている。
(1)「Out of the Blue」はレバノンの音楽家バッサム・サバ(Bassam Saba, 1958 – 2020)に捧げられている。レバノンで伝統楽器ネイの演奏から始め、パリで西洋クラシックとフルートを学び、その後ニューヨークに定住した彼はニューヨーク・アラビア・オーケストラの共同創設者となるなど、西洋音楽界へのアラブ音楽の紹介者として功績を残した。
(12)「No More Bossa」はブラジルの作曲家アントニオ・カルロス・ジョビン(Antonio Carlos Jobim, 1927 – 1994)への敬意を表す。典型的なボサノヴァではなく、後期のジョビンが意欲的に取り組んでいた繊細なオーケストレーションを思い起こさせる優雅な曲だ。
Toufic Farroukh 略歴
トゥーフィック・ファルークは1958年レバノン生まれ。同年代のレバノンの重要な作曲家/ピアニストのジアド・ラーバニ(Ziad Rahabani)との長年のコラボレーションで知られている。
幼い頃に兄弟の影響でサックスを始め、音楽大学で学ぶためにベイルートからフランス・パリに移住し、その後はフランスで作曲家/演奏家として自身の作品や映画音楽の分野で活躍。1994年に『Ali On Broadway』でデビューし、1998年の2nd『Little Secrets』、2002年の3rd『Drab Zeen』は全世界で40,000枚以上の売上を記録し国際シーンでのブレイクを果たした。
Toufic Farroukh – saxophones, percussions
Leandro Aconcha – piano
Jean-Luc Lehr – electric bass (except 3, 5, 7, 8)
Marc Buronfosse – contrabass (3, 5, 7, 8)
Xavier Rogé – drums
Benachir Boukhatem – violin
Justina Zajancauskaite – violin
Lilla Peron – viola
Sary Khalifé – cello
Sylvain Gontard – trumpet, bugle
Paco Andreo – trombone
Fanny Laignelot – flute, piccolo
Julien Chabod – clarinet
Roberto Garcia – vocal (3)
Nelson Veras – acoustic guitar (3, 11)
Sophie Lascombes-Mayrand – oboe, English horn (1)
Cédric Bonnet : horn (1)
Ali Khatib – req, bendir (2, 3, 5)
Walid Baba Nasser – darbuka, bendir (2, 3, 5)