南アフリカの鍵盤奏者ボカニ・デイヤーが示す、世界の未来への力強い道標『Radio Sechaba』

Bokani Dyer - Radio Sechaba

ボカニ・デイヤー、彼自身のヴォーカルもフィーチュアした新作

現代の南アフリカのジャズシーンにおいて既に最も重要な鍵盤奏者として位置付けられているボカニ・ダイアー(Bokani Dyer)。彼の出身である南部ソト語で“社会”、“国家”を表す「Sechaba」という言葉をタイトルに冠した新作『Radio Sechaba』で、南アフリカとはなにか、という社会的なテーマに対し多様なアプローチで解釈を示してゆく。

今作はボカニ・デイヤー自身によるソウルフルなヴォーカルが大きくフィーチュアされている。彼は生ピアノではなくキーボードによるエレクトリック・ピアノの音色を主に用い、即興のソロは音楽要素のごく一部と位置付けており、これまでの彼の作品よりも明らかに社会性やメッセージ性を帯びた発信となっていることは明らかだ。グルーヴの効いたリズムに、トランペットやパーカッションも強く前面に押し出した南アフリカの現代ジャズらしい作品だが、随所にヒップホップやファンク、R&Bなどからの影響も伺える。彼曰く、「自分にとって素晴らしいと思える音楽はすべて取り入れている」という音楽性は抜群の訴求力だ。

アルバムは美しいアカペラのコーラスで幕を開ける((1)「Be Where You Are」)。
(2)「Mogaetsho」は動悸のようなビートが印象的だが、これは国民に対する指導者の裏切りという重要なテーマを扱っている。

(2)「Mogaetsho」

(3)「Move On」は今作のハイライトとなる1曲だ。西アフリカの音楽からの影響も感じさせるサウンドの上で、過去や未来といった自分を縛るものに囚われるな、と歌う。力強く、自信に漲った音楽だ。

カリフォルニア州出身の米国人ラッパー、ダマーニ・ンコシ(Damani Nkosi)が参加した(4)「State of the Nation」はヒップホップとジャズの融合を南アフリカのジャズの文脈の延長線上で提示する。

(6)「Ke Nako」はジャイルス・ピーターソンによる南アフリカのジャズシーンを世界に紹介し大ヒットしたコンピレーション・アルバム『Indaba Is』のオープニング・トラックの再録版だ。タイトルは「今がその時だ」の意味で、ボカニ・ダイアーはここではエレクトリック・ピアノを弾きポジティヴなメッセージを運ぶ。

(6)「Ke Nako」

かつての反アパルトヘイト闘争において、アフリカ民族会議(ANC)の無線放送「Radio Freedam」は人々の団結の重要な要素として機能していた。アパルトヘイト自体は1991年に廃止が宣言され、それに伴いラジオ・フリーダムも放送を廃止したが、それから30年以上が経った今も世界には様々な課題が山積みだ。
この南アフリカの次代の音楽を担うアーティストは、個人の内省の重要性と、そこからの自己解放、行動変化をメッセージ性の強い音楽に乗せて訴えかける。

ラストの(14)「Medu」はボカニ・デイヤーは作曲のみで演奏には参加していない。
ダブルベース、そしてホーンセクションによる祈るような美しいアンサンブルは、まだまだ世界には希望があると思わせてくれる素晴らしいものだ。

Bokani Dyer 略歴

ボカニ・ダイアーは1986年ボツワナ共和国の首都ハボローネ生まれのピアニスト/作曲家。
彼の父スティーヴ・ダイアー(Steve Dyer)もまた著名なミュージシャン(サックス/フルート奏者)で、他の多くのアーティストと同じように南アフリカのアパルトヘイト政策から逃れるためにボツワナに亡命した人物だった。

ボカニ・ダイアーは南アフリカのケープタウン大学で作曲と演奏の学位を優秀な成績で取得。その後すぐに最注目のピアニスト/作曲家/プロデューサーとして知られるようになった。
2011年のセカンドアルバム『Emancipate the Story』ではホーンセクションも加えた編成で若干20代の若者とは思えない卓越した演奏をみせ話題となった。

2014年には最初のドイツ、スイス、チェコ共和国、イギリスのロンドンで最初のヨーロッパツアーを実行している。

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