Isabella Bretz & Rodrigo Lana 新作『Cabeça Fora D’Água』
ブラジルのシンガーソングライター、イザベラ・ブレッツ(Isabella Bretz)と鍵盤奏者ホドリゴ・ラナ(Rodrigo Lana)の共同名義のアルバム『Cabeça Fora D’Água』が美しい。二人の共作である(10)「Cabeça Fora D’Água」を除く全曲がイザベラ・ブレッツの作詞作曲。情報過多・不確実な時代に生きる人々に癒しをもたらし、人間らしい生活とは何かを考えさせてくれる10の優れた楽曲が収録されている。
アルバムは、映画『ONCE ダブリンの街角で』(2007年)でアカデミー賞最優秀歌曲賞を受賞したチェコ出身アイスランド在住のシンガーソングライター/女優マルケタ・イルグロヴァ(Markéta Irglová)が彼女のキャリアで初めてポルトガル語で歌った(1)「Respiro」で幕を開ける。ともに歌うイザベラ・ブレッツが「なんらかの理由で今、心が冷えてしまった人々のために書いた」というこの曲は、わずかに揺れる火のような温かさと美しさで、そうした人々の心に再び活力を取り戻すための小さな動機を与えようとする。アコースティック・ギターやピアノのシンプルな演奏と幾重にも重なるコーラス、そして適度な音響効果も素晴らしい。
(5)「30 de Fevereiro」にはミナスジェライス州出身のシンガーソングライターであり、デザイナーとして本作のグラフィックデザインも担当するヘナート・エノーキ(Renato Enoch)をゲスト・ヴォーカリストとして迎える。“2月30日”という曲名には、型にはまることを期待される窮屈な社会の中で自由な発想を持ち、従来と違うことに挑戦することを激励する意味が込められている。
コーラスワークが最高に美しい(6)「Sentido」にはアントニオ・ロウレイロ(Antonio Loureiro)との共演も話題となったベラルーシ出身の歌手カテリーナ・ラドコヴァ(Katerina L’dokova)がゲスト参加。ルーカス・テレス(Lucas Telles)によるギターの演奏に乗せて、イザベラ・ブレッツとともに五感と音楽の深いつながりを歌う。
幽玄な短調の(7)「Cicatriz」は“傷跡”や“痕跡”の意味で、生まれた家系やそれまでの人生の出来事によってできた“痕跡”は個人にとって大事なものだが、それに捉われるつもりはない、と歌う。
イザベラ・ブレッツの強靭な意志は過去や社会に縛られ自由を奪われることを忌避し、自由や理想を求める。
イザベラ・ブレッツは語る:
もっとも重要なことは、特に苦しんでいるときに、この世で経験することの最大の保証は「無常」であることを知ることです。
isabellabretz.com
冷たい心は暖かくなります。炎はやってきます。
この素晴らしいアルバムには多くの示唆がある。
確かにポルトガル語は私たち日本人にとっては理解に難しいものだが、彼女らの誠実な音楽からは体で、心で感じられるものがあるはずだ。
Isabella Bretz 略歴
イザベラ・ブレッツ(Isabella Bretz)はフォークやインディー・ロックにブラジルの精神性を加えた音楽性が特徴のシンガーソングライター(SSW)。
2012年のデビュー・アルバム『Saudade』では、さまざまな状況や感情、考え方、場所に触れた人間の不安定さを表現した。
2017年にはホドリゴ・ラナとともに第2作目『Canções para Abreviar Distâncias』をリリース。この作品にはルゾフォニア(ポルトガル語圏の国々)の存命の詩人たちによる8つの詩に曲をつけた。
ラジオ番組「Bella Hora」の制作および司会を務めており、毎週異なるテーマを取り上げている。
ほかにソノラ国際作曲家フェスティバル(Sonora – Festival Internacional de Compositoras)のプロデューサーなど幅広くブラジルの芸術表現に関与している。
Isabella Bretz – vocals
Rodrigo Lana – piano, virtual instruments
Alexandre da Mata – acoustic guitar, electric guitar
Kezo Nogueira – trumpet
Léo Pires – drums
Lucas Telles – acoustic guitar
Pablo Maia – bass
Vanilce Peixoto – cello
Guests :
Markéta Irglová – vocal (1)
Renato Enoch – vocal (5)
Katerina L’Dokova – vocal (6)