1990年、「Red Hot」 は、プロジェクトの最初のアルバム『Red Hot + Blue』をリリースしました。エイズ・チャリティのアルバムで、内容はコール・ポーターへのトリビュートでした。トリビュート・アルバムのはしりでした。Red Hot は、それからおよそ20作、エイズに非常に関連したテーマでアルバムを制作。扱うテーマは、その後、薬物の問題、地球環境の問題へと拡がり、30作を超える作品をリリースしてきました。
2023年、Red Hot は、サン・ラ(Sun Ra)へのトリビュートをテーマにしたアルバムを発表しています。サン・ラーをテーマに選んだきっかけは、ロシアとウクライナの戦争が勃発したことでした。
2022年始め、Red Hot のプロデューサーたちは、プーチン大統領がウクライナの核施設を爆破すると脅迫し始めた時、サン・ラの「Nuclear War」という曲を思い出し、この曲のシングルを出そうということで、意見が一致しました。「Nuclear War」は、1982年にペンシルベニア州のThree Miles Islandで発生した原子力事故に対してサン・ラが書いた、サン・ラを象徴する楽曲の1つででした。
そこから、サン・ラへのトリビュート・プロジェクトが動き出し、まず、2023年5月にアルバム『RED HOT & RA : Nuclear War』がリリースされました。
ブラジルのアーティストたちが参加した『RED HOT & RA : SOLAR』(「Solar」はポルトガル語で「太陽」の意味。Sun Ra の 「Sun」 と同じ意)は、『RED HOT & RA : Nuclear War』に続く2作目のアルバムです。RED HOT によるサン・ラへのトリビュート・アルバムは、今後も続き、計6-7作発表される予定があります。
「サン・ラ(Sun Ra 正式名: Le Sony’r Ra、1914年5月22日 – 1993年5月30日))」は、作曲家、編曲家、キーボーディストのHerman Poole Blount が、1950年代に採用した自身のアーティスト名です。彼は、成功したジャズミュージシャンでしたが、実験主義に向かう中で自身を「サン・ラ」と名乗り始め、ジャズのアバンギャルドな流れを牽引する存在となりました。
Rolling Stone 誌は、サン・ラの存在を、ジャズマンの Duke Ellington とヒップホップグループ Public Enemy の間のミッシング・リンクだと記しています。サン・ラは、100枚以上のアルバムを発表し、アフロフューチャリズモを確立しました。この運動は、黒人の視点から、SFの要素を使用して新たに代替的な物語を生み出し、黒人のアイデンティティを祝福するというものです。
サン・ラの遺した芸術は、彼の死後30年を経ても、まだ、インスピレーションを与え続けています。サン・ラは、自身を社会平和を説く使者であると称していました。文化的抵抗の象徴であり、音楽から技術、政治、社会に至るまで影響を与えました。
サン・ラは、気候正義(climate justice|気候変動の影響や、負担、利益を公平・公正に共有し、弱者の権利を保護するという人権的な視点を気候正義という)について、直接的には取り上げていませんが、サン・ラの宇宙哲学と気候正義の間には多くのつながりがあります。例えば、核兵器の使用に対する強力な訴えや、人類の自己破壊能力などが挙げられます。現在、私たちは、原子力大国の緊張や気候変動、地球温暖化などの問題に直面しています。
ブラジルの音楽家たちがサン・ラをトリビュートする『RED HOT & RA : SOLAR』は、ブラジルの芸術と、サン・ラのアフロフューチャリズムの芸術や哲学、またブラジルの芸術と現在の環境問題を結びつけることになりました。ブラジルは、アフリカ大陸以外で最も黒人の多い国であり、ブラジルには、地球を守るために不可欠なアマゾンの大森林があります。インパクトの強い作品が生まれました。
『RED HOT & RA : SOLAR』には、ブラジルから Xênia França(シェニア・フランサ)、Orquestra Afronsinfônica(オルケストラ・アフロシンフォニカ)、Tiganá Santana(チガナ・サンタナ)、Max de Castro(マックス・ヂ・カストロ)、Metá Metá(メタ・メタ)、Edgar(エヂガール)、Munir Hossn(ムニール・オッソン)、Hamilton de Holanda(アミルトン・ヂ・オランダ)、Fabrício Boliveira(ファブリシオ・ボリヴェイラ)、Orquestra Klaxon(オルケストラ・クラクソン)、BNegão(ベネガォン)が参加、アメリカから Meshell Ndegeocello(ミシェル・ンデゲオチェロ)、Jazzmeia Horn(ジャズメイア・ホーン)が参加し、サン・ラの作品を再解釈しています。
「Astroblack Orunmilá」は、サン・ラの代表の1つと多くが認める半自伝的楽曲「Astroblack」にインスパイアされた楽曲です。サン・ラは、自分自身を「Astro Black(黒い星)」だと考えていました。
マエストロ、Ubiratan Marques(ウビラタン・マルケス)の指揮の下、カンドンブレ(ブラジルの民間信仰のひとつ。アフリカ系の宗教を基礎にしている)の神々の1人、Orunmilá(オルンミラ|知恵、知識、占いの神。光の大司祭)のためのアタバキ(ブラジルの文化が融合してできたハンドドラム)の響きが、北米のジャズ界で最も注目される新進気鋭の歌手、Jazzmeia Horn(ジャズメイア・ホーン)の歌声と重なります。
「Nature’s God(Sun Ra Sam Ba)」は、ブラジルのマルチインストゥルメンタリストであるMunir Hossn(ムニール・オッスン|Quincy Jonesなどの世界的なミュージシャンと活動)が中心となり、サン・ラがブラジルの森林で踊り、サンバする姿を想像し、アフロ宗教に通じた打楽器集団ogãs(オガォンス)と、ドイツ生まれのアメリカ人の歌手、作曲家、ラッパー、ベーシストの Meshell Ndegeocello(ミシェル・ンデゲオチェロ)を招き完成させました。
サンパウロの前衛シーンで活動するトリオ「Metá Metá(メタ・メタ|Juçara Marçal、Kiko Dinucci、Thiago França)」と、ラッパーのEdgar(エヂガール)は、アコースティックなアフロサイバーパンク曲「Nine Rocket for the Planet」を録音しました。サン・ラたちの創造的プロセスに倣うために、彼らもこの曲を1回の演奏を録音しました。歌詞では、「Tudo que nos restaé um pedaço de floresta(残されたものは森の一部だけだ)」と、地球の未来についてエヂガールが声を張り上げ言及します。
Tiganá Santana(チガナ・サンタナ)とXênia França(シェニア・フランサ)は、宇宙の光の不在と黒人性との関係を表現したアフロフューチャリズムの詩を歌います。そのサイケデリックな宇宙旅行の中で、「外側の暗闇」が「黒人の自然な音楽」を生み出すものであることを再確認していきます。
Hamilton de Holanda Trio(アミルトン・ヂ・オランダ・トリオ)による「Interstellar Low Ways」は、インスト曲です。世界が認めるブラジルのバンドリン奏者 Hamilton de Holanda(アミルトン・ヂ・オランダ)が、パーカッショニストのThiago Rabello(チアゴ・ハベーロ)と、鍵盤奏者のSalomão Soares(サロマォン・ソアーレス)とのトリオで演奏し、アルバムの中で最も踊りやすい楽曲になりました。
アルバムの最後を締めくくる楽曲は「Brainville Dazidéia」。アフロフューチャリズムの父「サン・ラ」からの影響と、ブラジルのヒップホップとサンバロックが生み出すスウィングが融合した作品になりました。Max de Castro(マックス・ヂ・カストロ)が音楽的に主導し、ラッパーのBNegão(ベネガォン)が、音楽で、郊外と貧困地域から新しい現実を構築すること、音楽の力とストリートから来る創造性について、ライムしています。黒人や混血の人々の身体は抑圧され、危険にさらされています。先祖の知恵と共同体が必要であり守られるべきもので、それらはすべての人々のためにより公正な世界を創造するのに役立つでしょう。
今回、声をかけたがレコーディングスケジュールの関係で参加できなかったBaianaSystem(バイアーナシステム)が参加する第2弾も準備しているそうです。期待して続報を待ちましょう。
ブラジル音楽とRed Hot の歴史
Red Hot シリーズは、同時代のブラジル音楽の魅力が世界に広まってきたという点でも、大きな役割を果たしてきました。これらのアルバムがきっかけで、ブラジル音楽と出会った方も多いのではないでしょうか。
▶︎ Red Hot + Rio (1996)
ボサノヴァのサウンド、特にアントニオ・カルロス・ジョビンの音楽への現代的なトリビュート
▶︎ Red Hot + Rio 2 (2011)
トロピカリア・ムーブメントの影響をトリビュートする2枚組の大プロジェクト