マティス・ピカード初のフルレンス作『Heat of the Moment』
ニューヨークで活動するマダガスカル系フランス人ピアニスト/作曲家、マティス・ピカード（Mathis Picard）による初のフルレンスのスタジオアルバム『Heat of the Moment』。3つのピアノトリオを軸に、オールスターとも呼べるゲストたちを迎えて制作された本作は、彼の自然への深い愛や、人間と自然の関わりについてをテーマにした探求の音楽だ。
世界中で演奏をする彼にとって、気候変動などの環境問題を肌で実感し落胆することは稀ではない。地球を傷つけることは自分たち自身を傷つけ、逆に地球を癒すことが自分たち自身への癒しにもつながると考える彼は、ここで自然を恐れ攻撃するのではなく、その恐れを地球、コミュニティ、そして自分自身への愛ある好奇心にシフトすることが必要だと説く。その自問自答の結果がこのアルバムであり、それ故に彼が作曲した各楽曲は絶望ではなく、希望や愛を感じさせる繊細だが明るさのあるものに仕上がっている。
冒頭から3曲目まではジョナサン・ピンソン（Jonathan Pinson, ds）とジョシュア・クランビー（Joshua Crumbly, b）がリズムセクションを担う。さらに(1)「Hello」にはブルックリン生まれのハイチ系SSW/フルート奏者メラニー・チャールズ（Melanie Charles）とシアトル生まれの打楽器奏者コフィ・ハンター（Kofi Hunter）がフィーチュアされており、ラテンの陽気さでリスナーを迎え入れる。
(4)「Your Love Is Healing」から(6)「Nothing Is Something」はジュリアード音楽院の同級生同士であるカイル・プール（Kyle Poole, ds）とラッセル・ホール（Russell Hall, b）とのトリオ。(5)「Prana」にはヴィブラフォン奏者のジョエル・ロス（Joel Ross）も参加する。
後半4曲は今作3組目のリズムセクションであるサヴァンナ・ハリス（Savannah Harris, ds）とパーカー・マカリスター（Parker McAllister）が登場。ロイ・ハーグローヴの秘蔵っ子トランペッター、ギブトン・ジェリン（Giveton Gelin）が参加した(7)「Never Again」は特に熱量が高く素晴らしい。
(9)「Let it Be」には現代NYジャズを代表するサックス奏者ブラクストン・クック（Braxton Cook）が参加。ピカードとジョナサン・ピンソンとジョシュア・クランビーはいずれもブラクストン・クックのデビュー作『Somewhere In Between』に参加しており、その頃からの縁が繋がっているようだ。
Mathis Picard プロフィール
マティス・ピカードは1995年にマダガスカル出身の母親とフランス人の父親の間にフランス南東部のグレノーブルに生まれた。3歳からピアノを弾き始め、幼少時から両親とともに一時的にアメリカ、マダガスカルに拠点を移したが、主に育ったのはフランスだった。
5歳のときにフランスのフォンテーヌブローの音楽院でジャズを知り、7歳の頃には楽譜を読むだけでなく即興演奏をもっとしたいと思うようになり、ジャズキャンプに参加するなど早い時期から経験を積んだ。12歳の時にはファッツ・ウォーラー（Fats Waller）などのストライド・ピアノの虜になり、ティーンエイジャー中盤ではエレクトロ・ダンス・ミュージックにも取り組んだ。
2012年にアメリカのジュリアード音楽院に入学。ラップトップでビートを作ることよりも、大好きなテクノ・ミュージックの要素を取り入れた音楽を、自身のピアノや他の優れた奏者による楽器の演奏で構築することを探求するようになっていった。
Mathis Picard – piano
Jonathan Pinson – drums (1, 2, 3)
Joshua Crumbly – bass (1, 2, 3)
Kyle Poole – drums (4, 5, 6)
Russell Hall – bass (4, 5, 6)
Savannah Harris – drums (7, 8, 9, 10)
Parker McAllister – bass (7, 8, 9, 10)
Guests :
Vuyo Sotashe – vocal (10)
Shenel Johns – vocal (10)
J. Hoard – vocals – vocal (10)
Joel Ross – vibraphone (5)
Melanie Charles – flute (1)
Giveton Gelin – trumpet (7)
Braxton Cook – alto saxophone (9)
Kofi Hunter – conga (1)
Ruben Fox – tenor saxophone (10)