ザムロックの歴史からザンビアの未来を想う、Sampa The Great 新作
ザンビア出身のラッパー/シンガー、サンパ・ザ・グレート(Sampa The Great)が、3作目のスタジオ・アルバム『Nu Zamrock』をリリースした。1970年代のザンビアで生まれたロック・ムーヴメント「ザムロック(Zamrock)」を、自身のルーツと結びつけながら現代的に再解釈した意欲作だ。
ザムロックとは、ザンビアの伝統音楽と欧米のロック、サイケデリック・ロック、ファンクなどが融合して生まれた音楽。1964年の独立後、独自の文化を模索するザンビアの若者たちの間で広がり、WITCHやNgozi Family、Amanazといったバンドがシーンを牽引した。歪んだギターやファンキーなベース、アフリカ由来のリズムが交錯するそのサウンドは、当時の社会における自由や反骨精神とも結びついていた。
本作の制作には、サンパ自身の家族にまつわる驚くべき発見が関わっている。彼女は親族との交流を通じて、叔父のジョージ・クンダ(George Kunda)が、ザムロックを代表するバンドWITCHの創設メンバーだったことを知ったのだ。「Groovy Joe」の名でも知られる叔父は、まさにザムロックの黎明期を担った人物だった。自身が探求してきた音楽の歴史が家族のなかに存在していたという事実は、彼女にとって大きな意味を持つ出来事であり、アルバム冒頭の(1)「Intro」では、叔父との対話を通じて当時の音楽やバンドの歩みを振り返り、作品全体の出発点を示している。
サウンドの核となるのはザムロック特有の荒々しいギターと、現代的なヒップホップの融合だ。このサウンドはなかなかに新鮮で、とくに力強いドラムスとベースがうねる(6)「Can’t Hold Us」や(8)「Canary」などはサンパの鋭いラップがザムロックの熱量とぶつかり合い、独特の雰囲気を伝えている。
(4)「Simon Says」では、業界からの評価や他者の視線に振り回されず、自分自身の音楽を貫く姿勢を力強いラップで表現する。タイトルは英語圏の子どもの遊び「Simon Says」(サイモンの言うとおりに動く遊び)を連想させるが、ここでは他人の指示に従うことへの反発という意味合いも読み取れる。
アルバムの中でも特に印象的な楽曲である(10)「Supernova」にはオーストラリアの世界的歌手シーア(Sia)がゲスト参加し、彼女の伸びやかな歌声が楽曲にポップな広がりを与えている。アメリカ合衆国のラッパー、カマウ(KAMAUU)を迎えた(12)「Star」や、ジンバブエのSSWニコール・グンベ(Nicole Gumbe)が参加する(14)「Gone」では、メロディや歌唱を生かした柔らかな表情も見せる。
また、本作にはザンビアの音楽家たちも深く関わっている。Solomon MoyoやMagnus “Mag44” Mandoらが制作に参加し、ルサカを拠点とするiMitundu Choirも(7)「Location」で歌声を添える。アフリカの音楽が世界各地に影響を与えていながら、その創造者たちを支える産業基盤は充分に整っていないという問題を扱った同曲には、サンパの切実で明確な問題意識が表れている。欧米の音楽市場を基準にするのではなく、アフリカの側から自らの文化と音楽の価値を発信しようとする姿勢も本作を貫く重要なテーマだ。
(8)「Canary」では、彼女は自らを「ザムロックの新しい王」と宣言し、男性中心に語られてきた音楽史を受け継ぎながらも、その未来を自分の手で切り拓こうとする強い意志を示している。一方でアルバムの最後を飾る(16)「I Can Love」では、自己肯定への迷いや不安とも向き合いながら、愛することへの希望を歌う。
ザムロックの歴史を支えた叔父の声から始まり、サンパ自身の歌声で幕を閉じる全16曲。過去の音楽を懐かしむだけでなく、家族から受け継いだ文化を自らの表現へと変え次の世代につないでいく。『Nu Zamrock』は、ザンビアの音楽史と現在を結びつける、パーソナルで魅力的な作品だ。
Sampa The Great プロフィール
1993年、ザンビア生まれ。幼少期に家族とともにボツワナへ移住し、同国で育つ。本名はSampa Tembo(サンパ・テンボ)。幼い頃からピアノや歌を学び、9歳頃から詩や歌詞を書き始めた。2013年にオーストラリアのシドニーへ渡り、SAE Instituteでオーディオ・エンジニアリングを学びながら音楽活動を本格化。2017年のミックステープ『Birds and the BEE9』で注目を集め、オーストラリアの音楽賞Australian Music Prizeを受賞した。
2019年にデビュー・アルバム『The Return』を発表。ヒップホップを軸に、アフロビート、ネオソウル、ゴスペルなどを取り入れた独自の音楽性と、アフリカに根差したアイデンティティを表現する歌詞で高い評価を獲得した。2022年には2作目『As Above, So Below』を発表。ザンビアやボツワナで育った経験を自身の表現の核に据えながら、国際的な活動を続けている。2026年には、叔父がザムロックの先駆的バンドWITCHの創設メンバーだったという家族の歴史を掘り起こし、その音楽的遺産を現代に受け継ぐ3作目『Nu Zamrock』を発表した。