未踏の音楽を探求するエドゥアール・フェルレ、人間と機械による驚異のピアノデュオ作品『PIANOïD²』

Edouard Ferlet - PIANOïD²

鬼才エドゥアール・フェルレ、自動演奏ピアノとの二重奏プロジェクト『ピアノイド』第二弾

独特の視点・さまざまなアプローチ方法でピアノという楽器の可能性の探求を続けてきたフランスの先駆的ピアニスト/作曲家エドゥアール・フェルレ(Edouard Ferlet)が、“ピアノと機械との関係”をテーマとした2021年作『Pianoïd』の続編となる『PIANOïD²』をリリース。

DAWソフトウェア「Ableton Live」とヤマハの自動演奏制御システム「Disklavier」(ディスクラヴィア)によってコントロールされたアップライトピアノによる人間の演奏の限界を突破したピアノと、自身が即興も交え演奏するサイレントピアノという2台のピアノによる未踏の音楽が繰り広げられる。

(7)「Excess」

ピアノは88の鍵盤を備え、音の強弱も自由自在、ペダルなどの機構によって多彩な表現力を有するなど“楽器の王様”であることは疑いようがないが、それでも一人の人間が通常の演奏をする場合には同時発音や演奏スピードにどうしたって制約が存在してしまう。
エドゥアール・フェルレは、ピアノの自動演奏を駆使してあらゆる制約を払い除け、ピアノという楽器自体の音楽的な可能性を追求する。(1)「Inhale」から、彼の目的は明らかだ。驚異的だが無機質なシーケンスをマシンガンのように弾くアンドロイドに、エドゥアール・フェルレは生身の人間が弾く有機質のピアノで応える──いや、主従関係をはっきりさせておくならば、この音楽の“主”はディスクラヴィア・ピアノの方であるように自分には聴こえてしまう。エドゥアール・フェルレは自らが生み出したシーケンス・フレーズに必死に必死に食らいつき、抵抗しているようにすら思えてしまうのだ。まるで天才科学者が自身が生み出したロボットの裏切りに遭い、葛藤に苦しむSF作品にありがちな展開かのように…。

ポリリズムを取り入れた(5)「Herd Instinct」はディストピア感満載。(11)「Intemperies」では1小節を正確に等分する音符が徐々に増えていくという、やはり人間には到底不可能な芸当が試みられている(人間が“音楽的”だと思えるギリギリのスピードまでで終わっているところに、エドゥアールの芸術家としてのプライドが窺える)。

「Rythmoïd」(本作未収録)の演奏風景

このアルバムは、聴く者の価値観や音楽的バックグラウンドによっても大きく感じ方や捉え方が変わってくる作品だ。トランス感覚の悦びもあれば、心地よい反復に副交感神経が活性化する人もいるかもしれない。感覚的にはエロティシズムに近いものも覚える向きもあるだろう。音楽におけるシンギュラリティを垣間見ることだってできそうだ。

機械は人間を超えるか。それとも、永遠に超えることはできないか。
この音楽は、そうした哲学的な問いさえ投げかけてくる。

Édouard Ferlet – silent piano, disklavier piano

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