今、アラビック・ジャズが最高に熱い! ウード奏者アミン・アル・アイディ、驚異的なデビュー作

Amin Al Aiedy - Shams

現代アラビック・ジャズの申し子のデビュー作

フランス人の母親とイラク人の父親を持つウード奏者/作曲家、アミン・アル・アイディ(Amin Al Aiedy)のデビュー作『SHAMS』は驚きに値する。西洋とアラブ、常に二つの文化が当たり前に存在する環境で育った彼が今作で魅せるのは西洋の音楽理論をベースにしていながら、従来その枠内では発想することさえ難しかった斬新な旋律だ。それはもちろん、彼の出自から明らかなようにアラブの音楽に強く影響を受けている。オリエンタル・ジャズという言葉は古く(彼の父親の世代のときから)存在するが、このアルバムはオリエンタル・ジャズの現代最高峰の一枚と言っても過言ではないだろう。

私は(3)「Bambi」で彼の音楽に初めて触れた。
ウードとピアノがユニゾンする流れるような音符の連なりは予測不可能で、未だかつて経験したことのないような音楽的快感が脳を駆け巡る。ピアノがバンドにいるためかウードに特有の微分音を積極的に用いているわけではないが、マカームの音階をもとにした魅力的な旋律は最高にかっこいいし、楽曲の展開もドラマチックだ。

(3)「Bambi」

(3)「Bambi」があまりに素晴らしかったので、すぐにアルバムをライブラリに追加して、あらためて1曲目からしっかり聴いてみると、他も粒揃いの名曲・名演ばかり。カルテットのメンバーの演奏も素晴らしく、ピアノのヴァンサン・フォルスティエ(Vincent Forestier)、ドラムスのマテオ・シエルサ(Matheo Ciesla)、ダブルベースのジャン・ワシェ(Jean Waché)とのアンサンブルは相当に堅牢で、多くのセッションを重ねていることがわかる。時に繊細に表現し、時に大胆に攻めるこのカルテットは最高に美しく、そしてスリリングだ。

(2)「Eclipse」

アルバム収録の9曲はすべてアミン・アル・アイディの作編曲。タイトル「Shams」にはビラド・アル・シャム(Bilad al Sham)、つまり“太陽の大地”と呼ばれる中東の肥沃なレバント地域への想いが込められている。歴史的に繰り返される人々の争いはこの地域に暗い影を落としているが、アミン・アル・アイディはこの作品を通じて人間同士の繋がりの重要性を説き、平和への願いを訴えかけていると解釈ができる。

(5)「Snow On Baghdad」

9分45秒の大作(6)「SHAMS (Soleil)」は彼の音楽の真骨頂だ。
多様な文化が複雑に絡み合い、螺旋状の上昇気流となって未来へと伸びていく現代において、音楽の分野ではこうした作品が中心となっていてほしい。

これは、ジャズの公式をアップデートする傑作だ。

Amin Al Aiedy プロフィール

アミン・アル・アイディはフランス生まれのウード奏者/作曲家。父親でイラク出身のウード奏者/SSWファウズィ・アル・アイディ(Fawzy Al Aiedy, 1950 – )はオリエンタル・ジャズの先駆者として知られる著名な音楽家。父の影響のもとアラブ音楽や西洋クラシック音楽を分け隔てなく吸収し、ストラスブール地方音楽院や大学ではギターやベースも学んだ(父ファウズィ・アル・アイディの2019年作『Ishtar connection』では、ベーシストとしてクレジットされている)。

その後チュニジアに渡り、ウードと東洋のマカムの研究を続け、さまざまなジャズやワールドミュージックのグループに参加しながら、チュニスの高等音楽大学でジャズとコントラバスを教えた。2020年にフランスに戻り、自身のグループを中心に活動をしている。

(7)「Isabelle」

Amin Al Aiedy – oud
Vincent Forestier – piano
Jean Waché – contrabass
Matheo Ciesla – drums

Amin Al Aiedy - Shams
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