アダム・バウディヒ&レシェック・モジジェル 異色のデュオ作
ヴァイオリニストのアダム・バウディヒ(Adam Baldych)と、ピアニストのレシェック・モジジェル(Leszek Możdżer)。ポーリッシュ・ジャズを代表するこの2人によるデュオ・アルバム『Passacaglia』は、期待を超える素晴らしい作品だった。クラシックとジャズを内包しながらもそのどちらとも異なる、プリミティヴな“音楽そのもの”の体験はまさに唯一無二だ。
アルバムには2人の共作曲を含むオリジナルを中心に、いくつかのクラシックの新解釈も収録。アダム・バウディヒは通常のヴァイオリンよりも大型で、ヴィオラよりもさらに低い調弦のルネサンス・ヴァイオリンを多用。またアルコ(弓)よりもピッツィカートを多用し、物思いに耽るような静謐な音空間を作っている。今作のもうひとつの大きな特徴はレシェック・モジジェルが弾く2台のグランドピアノで、1台は通常のA=442Hzだが、もう1台をA=432Hzに調律。(1)「Passacaglia」など時には左手を442Hzピアノ、右手を432Hzピアノというようにその2台を同時に弾く場面もあり、不思議な聴感覚を呼び醒ます。
クラシックの再解釈は3曲。エリック・サティ(Erik Satie, 1866 – 1925)の(5)「Gymnopedie」、12世紀の女性作曲家ヒルデガルト・フォン・ビンゲン(Hildegard von Bingen, 1098 – 1179)の(14)「O Ignee Spiritus」、そしてルネサンス時代の作曲家ジョスカン・デ・プレ(Josquin Des Prez, 1450/1455 – 1521)の(15)「La Deploration Sur La Mort D’ockeghem」。
古典的で室内楽的な美しい調和、感情の昂りが表出する即興演奏、そして2人の実験精神が高度に組み合わさった驚くべき作品と言えるだろう。
Adam Bałdych 略歴
アダム・バウディヒは1986年ポーランド西部の都市ゴジュフ・ヴィエルコポルスキに生まれ、9歳の頃からヴァイオリンを学び始めた。13歳でジャズに傾倒、16歳の頃よりプロとしての活動を始め“ジャズヴァイオリンの革新者”として世界にその名を轟かせた。
2012年にドイツの名門ジャズレーベル、ACT MUSICからデビュー作『Imaginary Room』を発表。これまでにヤロン・ヘルマン(Yaron Herman)、ヘルゲ・リエン(Helge Lien)、イーロ・ランタラ(Iiro Rantala)など多数の名手たちと共演。ヴァイオリンという楽器が持つポテンシャルを限界まで高める圧倒的な表現力を備えた現代最高峰の演奏家として評価されている。
数年前から通常のヴァイオリンよりも一回り大きく、7度ほど低く調弦されたルネサンス・ヴァイオリンを演奏に多用するようになっており、『Clouds』(2020年)や『Poetry』(2021年)、『Legend』(2022年)でもその豊かな音色を楽しむことができる。
Leszek Możdżer 略歴
ピアニストのレシェック・モジジェルは1971年ポーランドの歴史ある港町グダニスク生まれ。5歳の時にピアノを始め、1996年にグダニスク音楽アカデミーを卒業。これまでにパット・メセニー、デヴィッド・ギルモア、トーマス・スタンコ、アナ・マリア・ヨペックなど多数の音楽家と共演、100以上の作品に参加している。
ポーランドが生んだ作曲家フレデリック・ショパンの作品をジャズアップしたアルバム『Impressions On Chopin』(2010年)や、映画音楽の作曲などでも知られ、クシシュトフ・コメダ賞(1992年)やポーランド外務大臣賞(2007年)などを多数受賞。ポーランドを代表するジャズ・ピアニストとなっている。
Adam Bałdych – violin, renaissance violin
Leszek Możdżer – piano (442 hz & 432 hz)