J. ラモッタ すずめ、テルアビブでの子ども時代の想い出
モロッコ系イスラエル人SSWのJ. ラモッタ すずめが、7枚目となるアルバム『Asulin』(ヘブライ語表記:אסולין)をリリースした。2022年作『So I’ve heard』以来積極的に母国語の歌をリリースする彼女だが、今作も全編ヘブライ語でサウンド面でも中東音楽の影響が強くなっている。
これまでの彼女の作品同様に、サウンドスケープの随所に天才的な閃きが潜む。
アルバムタイトルであり、母方の姓に因む(1)「אסולין」(アスリン)は、テルアビブで仕立て屋を営む祖父に捧げられている。(2)「חרטטי בביטחון」(自身をもって彫刻する)は彼女史上もっとも中東音楽のエッセンスを取り入れた楽曲だ。独特なリフを弾くのは奇才ギタリスト、ウリア・ウィツタム(Uriah Vitztum, אוריה ויצטום)。独特な曲調の中にはスペインのフラメンコからの影響も微かに窺え、面白い。
(3)「מזל תכשיט」(幸運の宝石)にはイスラエルの若きエチオピア系女性ラッパー、エデン・デルソ(Eden Derso, עדן דרסו)がゲスト参加。
MVのセンスも素晴らしい(8)「עץ או פלי」(表か裏か)は今作を代表するトラックだろう。目まぐるしく提示される展開は彼女の多様なバックグラウンドの表れだ。
故郷テルアビブでの子供時代の家族の物語と思い出にインスピレーションを得たという今作は言うまでもなく、全編が最高のクオリティだ。高度なハーモニー、最先端のビート・ミュージック、感性豊かな詩情や声。アルバムタイトルも歌詞も全てヘブライ語であることから世界の市場を狙ったリリースではないかもしれないが、テルアビブの音楽シーンを注目すべき理由が詰まった作品に仕上がっていることは間違いない。
(12)「מרקורי」(水星)は平和や秩序の乱れを水星の逆行に例え、嘆く。
トメル・バール(Tomer Bar)がピアノを弾く(13)「אפחד」はエモーショナルな締め括りだ。
J.ラモッタ すずめ プロフィール
J. Lamotta すずめ(本名:Rotem Alagem Asulin)はイスラエル・テルアビブでモロッコにルーツを持つ家庭に生まれた。十代の頃にビリー・ホリデイ、ジョン・コルトレーン、サン・ラといった音楽に衝撃を受けジャズの道を志す。
2014年、ジャズの学士号を取得する直前に、彼女は勉強を終えるはずだったニューヨークではなくベルリンに転居することを決めた。ベルリンでは、マーヴィン・ゲイ、カーティス・メイフィールド、Jディラのサウンドを通じて、ソウルとヒップホップへの情熱を発見。その頃からトランペット、パーカッション、シンセサイザー、ギターの演奏やビートメイクをし、歌うようになった。
いくつかの自主制作盤を経て2017年にベルリンのJakarta Recordsからリリースした『Conscious Tree』が大ヒット、同年にブルーノート東京に初出演。以来、テルアビブのシーンを代表するアーティストとして注目され続けている。