ミシェル・カミロ&トマティート、新譜『Spain Forever Again』
この奇跡的なデュオが、ここまで長く作品を発表し続けてくれるとは思っていなかった。ミシェル・カミロ(Michel Camilo)とトマティート(Tomatito)、ラテンやブラジル、ジャズの数多の名曲たちを超絶技巧のピアノとギターで聴かせてきた2人の最新作のタイトルは『Spain Forever Again』。
もう約四半世紀も前に初めてこのデュオでリリースされた『Spain』(2000年)の頃から、もうずっと何とも微妙なタイトルとジャケット・アートのセンスは変わらないが、中身の音楽に関していうとやはりこの2人は特別だ。四半世紀の間、ずっと、特別なままだ。
ファースト・アルバムではチック・コリアの「Spain」にコンスエロ・ベラスケスの不朽の名曲「Bésame Mucho」、2nd『Spain Again』(2006年)ではアストル・ピアソラの「Libertango」にやはりチック・コリアの「La Fiesta」、3rd『Spain Forever』(2016年)ではエグベルト・ジスモンチの「Água E Vinho」にエンニオ・モリコーネの「Cinema Paradiso」、そしてみたびチック・コリアの「Armando’s Rhumba」といったように、どの作品でも“キラートラック”と呼べる曲があったが、今作でその役割を担うのはアリエル・ラミレスの(1)「Alfonsina y el Mar」とロドリーゴの(7〜8)「アランフエス協奏曲」ということになるのだろう。
(1)「Alfonsina y el Mar」(アルフォンシーナと海)はアルゼンチン・サンバを代表する曲で、実在した詩人アルフォンシーナ・ストルニの最期を描いた曲。ここではミシェル・カミロのピアノとトマティートのギターがシームレスに主題を入れ替わり担当し即興を交えて弾いており、その完璧な美しさは奇跡的と言うに値し筆舌に尽くしがたい。
キューバの名手チューチョ・バルデスの(2)「Mambo Influenciado」や、カマロン・デ・ラ・イスラが歌ったフラメンコ屈指の名曲(6)「La Leyenda Del Tiempo」といった華やかな曲も収録されており、情熱的な演奏が素晴らしいが、やはりラストに収められたロドリーゴの「Aranjuez」全3楽章のこの2人なりの解釈が占める感情の比重は大きい。第二楽章はこのデュオの発端ともなったチック・コリアの「Spain」のイントロで引用されていることでも有名だが、今回はロドリーゴの原曲を重視した構成で全編を演奏。即興も控えめにしっかりとアレンジが組まれた印象の演奏は、深遠な美しさを湛えつつ、暗にこの素晴らしいデュオの最終章を示すような寂しさを仄めかすように聴こえてしまう。
ミシェル・カミロ&トマティート プロフィール
ピアニストのミシェル・カミロ(Michel Camilo)は1954年ドミニカ共和国の首都サント・ドミンゴ生まれ。
音楽一家に育ち、幼少時からアコーディオンやピアノを弾き、エリラ・メナ国立初等音楽院とドミニカ共和国国立音楽院で音楽を学んだ。1979年にニューヨークに移り、マネス音楽大学とジュリアード音楽院で学ぶ。そのラテン・テイスト溢れる超絶技巧のピアノ演奏はニューヨークのジャズシーンでも大きな注目を集め、1985年にNYのカーネギーホールに出演したことで一気にその名が知られるようになった。
自身が作曲した「Calibe」は、ラテン・ジャズを代表する名曲だ。
ギタリストのトマティート(Tomatito, 本名:José Fernández Torres)は1958年スペイン・アンダルシア州アルメリア県でロマの一族に生まれた。著名なフラメンコ歌手カマロン・デ・ラ・イスラ(Camaron De La Isla, 1950 – 1992)の伴奏でキャリアをスタートさせ、彼が亡くなる1992年まで20年間にわたりサポートを続けた。これまでに数多くのコラボレーション・アルバムと6枚のソロアルバムを制作しており、ソロ作のうち『Aguadulce』(2005年)と『Sonanta Suite』(2010年)の2枚はラテングラミー賞を受賞している。
2人が共作したアルバム『Spain』(2000年)はラテングラミー賞を受賞した。
Michel Camilo – piano
Tomatito – guitar