どうしようもなくクレイジーな異端サンバジャズ。鬼才アントニオ・ネヴィス『Deixa Com a Gente』

Antônio Neves - Deixa Com a Gente

クセ強めのジャズサンバ。アントニオ・ネヴィス新譜

ブラジルのトロンボーン/ドラムス奏者アントニオ・ネヴィス(Antônio Neves)が新作『Deixa Com a Gente』をリリースした。ある種の狂気やカオスを感じさせた前作『A Pegada Agora É Essa (The Sway Now)』の要素もほのかに残しつつ、全体的にはサンバやショーロの感覚が大幅に強化された作品となった。

カヴァキーニョやヴィオラォン(ギター)、パンデイロなどブラジルらしい楽器から繰り出されるリズムとハーモニーを軸に、幾重にも多重録音されたアントニオのトロンボーンやヴォイスが印象的なアグレッシヴなトラック(1)「DINAMITE」で幕を開けるが、(2)「CARISMÁTICO」以降は(若干クレイジーではあるが)基本的にはサンバだ。アントニオのヴォーカルやトロンボーンの音色の気怠さも絶妙に曲調にマッチし、現代的な感覚も含めて面白いブラジル音楽に仕上がっている。

前作のカオスティックな要素を引き継いだ冒頭の曲(1)「DINAMITE」

楽曲は一部の共作を除き基本的に全てアントニオ・ネヴィスの作詞作曲で、新世代の音楽家として注目される彼のルーツが窺える。まさに“大円団”なサンバ(8)「LÁ TINHA」も最高だ。

エドゥアルド・サンタナ・ヂ・ソウザ(Eduardo Santana de Souza)と共作した(5)「ABÓBORA」

それにしても、このジャケット写真のセンスは最高だ。彼の音楽性のすべてを象徴的に表現した、素晴らしいアートワークのように思う。

Antônio Neves 略歴

アントニオ・ネヴィスは1990年ブラジル・リオデジャネイロ生まれ。父親は著名なフルート/サックス奏者のエドゥアルド・ネヴィス(Eduardo Neves)、母親は画家という家庭に育ち、幼少期から父親が家で熱心に聴くジョシュア・レッドマン、ジョン・コルトレーン、ブランフォード・マルサリス、ピシンギーニャなどのサックス奏者の音楽に一緒に耳を傾けていたが、彼自身は自由でグルーヴに満ちたドラムの音に魅入られていた。11歳でようやくドラムセットを買ってもらうと毎日長時間叩き続け、その大音量は姉や近所の住人を困らせた(「卵とか窓に投げつけられたよ」と彼は言っている)。

12歳の頃、父に連れられて初めてジャムセッションに参加。14歳でプロのドラマーとしてのキャリアをスタートしリオのライヴハウスなどで演奏した。
トロンボーンはリオデジャネイロ州連邦大学(UNIRIO)に入学後、21歳のときから選択科目で学び始めた。きっかけは学校でトロンボーンを習っている生徒を見て「そんなに難しくないかもしれない。やってみたい」と思ったからで、音を出して先生に「良い音だ」と褒められ、すぐに自分がトロンボーンを吹き、ブラジルのナチルッツ(Natiruts)のようなレゲエバンドと一緒に演奏する姿を思い描いたのだという。

それからドラムスとトロンボーンを半分ずつ演奏するようになり、2017年に『Pa7』でトロンボーンとドラムスのマルチ奏者としてアルバムデビューした。

子供の頃は将来はドラマーとしてジョシュア・レッドマンと演奏することを夢見ていたが、トロンボーンは彼の人生を別の方向に導いた。斬新な音楽性が大きな話題となった『A Pegada Agora É Essa (The Sway Now)』(2021年)のジャケットはトロンボーンを持つ彼の写真となっているが、これはアートワークを手がけたアナ・フランゴ・エレトリコ(Ana Frango Elétrico)に「トロンボーンを持ってくるように」頼まれたためで、事実、ドラムセットよりもトロンボーンの方が持ち運びがしやすかったのだ。

彼の音楽性はエルメート・パスコアールやパウリーニョ・ダ・ヴィオラらブラジル最高峰のミュージシャンたちのバックを支えた父からの影響が強いが、同時に現代的でユニークな視点を併せ持つ。

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