SSW/トロンボーン奏者リタ・パイエスの新作『De camino al camino』
バルセロナの青少年ジャズバンド、サン・アンドレウ・ジャズバンド(Sant Andreu Jazz Band)出身の若きスターの一人、シンガーソングライター/トロンボーン奏者のリタ・パイエス(Rita Payes)が新作『De camino al camino』をリリースした。アーティストとして常に進化を続ける彼女は、耳心地のよい従来作との安易な比較を拒むほど独特のファンタジーな音楽観で、世界中のリスナーを魅了する。
サン・アンドレウ卒業後、ギターの名手である母エリザベト・ローマ(Elisabeth Roma)とともにサン・アンドレウの南米志向の音楽性を受け継いだテイストのカヴァー・アルバム『Imagina』をリリースし絶賛され、その後アヴァンギャルドな作風のSSW/ギター奏者ポル・バトレ(Pol Batlle)との結婚に前後し制作され自身のオリジナルも含んだ2nd『Como la Piel』で従来のボッサ・テイストも維持しつつも大胆にダーク・ファンタジーの要素を取り入れた作風で驚きを与えてくれた彼女だが、今作はさらに彼女自身の個性を強めた作品となっている。
アルバムに収録された曲は1曲を除き全てリタ・パイエスの作詞作曲。サウンド面では母エリザベト・ローマの卓越したクラシックギターを中心に、夫ポル・バトレのギター、さらにジャジーなベースやドラムスといったもはやジャンルを特定することが不可能な斬新な音楽となっている。特に印象的なのはストリングス・カルテットで、この魔法のようなアレンジがさらに楽曲に幻想的な雰囲気を持ち込んでいる。
弦楽四重奏のみの伴奏をバックに歌われる(3)「Tantas Cosas」もリタ・パイエスの音楽家としての進化を象徴的に捉えた1曲だ。変拍子や複雑に絡みつく各パートのアレンジが美しく、アルバムのアクセントとなっている。
(4)「Por qué Será」にはヴォーカリストのラ・タニア(La Tania)とギタリストのジュライ・コルテス(Yerai Cortés)をフィーチュア。リタのラ・タニアの二重ヴォーカルが素晴らしいが、アレンジ面でも伝統的なフラメンコの要素に南米音楽の味付けをし、現代の感性にあわせアップデートした楽曲となっており、ジュライ・コルテスの技巧的なギターや、長調に場面転換する間奏部での弦楽四重奏の演奏、リタ・パイエスのトロンボーンのソロなど、最初から最後まで美しくパーフェクトな仕上がりとなっている。
カタルーニャ語で歌われる(5)「No És La Llum」は同郷カタルーニャ出身の気鋭SSW/ギタリストのラウ・ノア(Lau Noah)との共演。二人のハーモニー、そして柔らかな2本のガットギターの音色とストリングス・カルテットによるアンサンブルはどこまでも深く、心を満たしてくれる。
そして(8)「El Panadero」にはカタルーニャの歌姫シルビア・ペレス・クルス(Sílvia Pérez Cruz)がゲストで参加。どこか郷愁も感じさせる曲調と歌が最高だ。
リタ・パイエスの長女の名前を冠した(9)「Juna」だが、イントロの心音は超音波ドップラー装置を用いて収録した、当時彼女のお腹の中にいた次女ルアラ(Luara)のものだという。
(11)「Alma en Vilo」はリタの兄でトランペット奏者のエウダルド・パイエス(Eudald Payés)が作曲しトランペットのソロも吹いており、今作中唯一のリタが作曲をしていないトラックとなっている。
アルバムのタイトルはスペイン語で“道の途中”という意味だ。
カタルーニャの才能溢れた音楽家が自身の人生における大きな転換期で発表した今作は、確実に彼女の輝かしいキャリアを代表する作品として後世まで永く評価されるだろう。
Rita Payés 略歴
リタ・パイエス(Rita Payés Roma)は1999年生まれ。ベーシストのジョアン・チャモロ(Joan Chamorro)が主宰する6歳から18歳までの少年少女で構成されるジャズ楽団、サン・アンドレウ・ジャズバンド(Sant Andreu Jazz Band)出身で、そのジョアン・チャモロのプロデュースのもと2015年に『Joan Chamorro Presenta Rita Payés』でアルバムデビュー。同楽団出身者の中でもアンドレア・モティス(Andrea Motis)らと共に、最も成功したミュージシャンとして注目されている。
2023年にはアメリカを代表するジャズ・エンターテイナー、ジョン・バティース(Jon Batiste)と「My Heart」で共演するなど、スペイン国内だけでなく国際的な注目を集めてきている。
Rita Payés – trombone, vocal
Elisabeth Roma – guitar
Pol Batlle – guitar
Horacio Fumero – double bass
Juan Rodríguez Berbín – drums, percussion
Guests :
La Tania – vocal (4)
Yerai Cortés – guitar (4)
Lau Noah – vocal, guitar (5)
Toni Vaquer – piano (6)
Sílvia Pérez Cruz – vocal (8)
Eudald Payés – trumpet (11)