アデル・ヴィレ、確かな芸術性と個性を発揮したデビュー作
フランスのチェロ奏者/作曲家アデル・ヴィレ(Adèle Viret)のデビュー・アルバム『Close to the Water』が素晴らしい。チェロ、トランペット、ピアノ、ドラムスというジャズの編成としては珍しいフォーマットで、混ざり合う地中海周辺の世界の“今”を体現するような複雑さと美しさが織り重なる。
アルバムは詩情豊かな(1)「Close to the Water」で幕を開ける。自然な7拍子のリズムで、チェロとトランペットの絡み合いとローズピアノによる空間的なハーモニーが特徴的だ。今作の四重奏のメンバーは ドラマーがベルギー出身のピエール・ユルティ(Pierre Hurty)、ピアノがチュニジア出身のワジディ・リアヒ(Wajdi Riahi)、そしてトランペットは実弟のオスカー・ヴィレ(Oscar Viret)。
詳しくは文末の彼女の略歴にて紹介するが、(2)「Choral for the Sea」はアラブ・アンダルシアからヨーロッパまで、地中海周辺で発展した文化に対するアデル・ヴィレのリスペクトが音に表れている。今作でもっとも素晴らしい1曲だ。
哲学的で現代音楽の雰囲気を持つ(3)「Novembre」、クラシカルなイントロから映像的な現代ジャズへと流れる(4)「Made In」、妙に壮大で情熱的な(7)「Watchmaker」など、聴きどころは満載。4人それぞれの細かなプレイがとにかく素晴らしく、それがカルテット全体のアンサンブルの妙技につながる。
Adèle Viret 略歴
アデル・ヴィレは1999年生まれ。父親は革新的なコントラバス楽団オルケストラ・ド・コントラバス(L’Orchestre de Contrebasses)などで活躍したコントラバス奏者ジャン=フィリップ・ヴィレ(Jean-Philippe Viret)で、そんな父に憧れた彼女も幼少期から即興演奏や作曲のセンスを自然と磨いた。
2019年にチェロとダンスのデュオ「N’Être」を始動。さらに同年、地中海沿岸の若手アーティストを集めてオリジナルのレパートリーを制作するMedineaネットワークによる地中海青少年オーケストラ(MYO)に参加。異文化創造の経験に深く影響を受けた彼女は、ブルガリア、フランス、ポルトガル、チュニジアのミュージシャンとともに自身のグループを結成し、2022年9月にチュニジアで初のコンサートを開催した。
ブリュッセル王立音楽院でクラシック音楽も学びながら、自身のカルテットでの活動やベルギーの革新的なジャズ・プロジェクト、Aka Moon のアルバムの録音にも参加するなど精力的な行動を見せている。
2024年8月末には父ジャン=フィリップ、弟オスカーとともに「トリウム・ヴィレ(Trium Viret)」として来日し、新宿ピットインで演奏した。
Adèle Viret – cello
Wajdi Riahi – piano, Fender Rhodes, vocals
Oscar Viret – trumpet, vocals
Pierre Hurty – drums