サントゥールの魔法の響きと、微分音も特徴的な驚異のフュージョン
イラン・テヘラン出身のサントゥール奏者/作曲家スィヤーヴァシュ・カムカール(Siavash Kamkar)と、オランダ・ユトレヒト出身のドラマー、マーティン・スーターブローク(Martijn Soeterbroek)のデュオ・ユニット、マルヴァッシュ(Marvash)の音楽が面白い。ペルシャの伝統的な打弦楽器であるサントゥールの超絶技巧ジャズというだけでも興味深いが、その調弦も西洋音楽の平均律ではなく微分音が含まれるスケールになっていたり、中東音楽特有の変拍子が多用されたりと攻めており、そこにプログレッシヴ・ロックの影響を受けているであろうドラムスやエレクトリック・ベース、シンセなどが絡み合うというなかなか他では聴けないサウンドが楽しめる。
私は彼らのことを2024年のEP『Az Zagros Ta Zuiderzee』で知り衝撃を受けたが、演奏は最高なのだが各2分程度の短尺の楽曲ばかりが5曲と、もうちょっと長く聴いていたいのに…と思うところがあった。そこで過去作を漁ってみたところ、今回紹介する2022年のデビューアルバム『Dar Amalga』を発見。今回はこちらを紹介していこうと思う。
イランのサントゥール奏者とオランダのドラマーのデュオ・ユニット
「融合」を意味する言葉遊びをユニット名に冠したマルヴァッシュ(Marvash)。彼らの音楽を端的にまとめるとすれば“ペルシアン・ジャズ・フュージョン”ということになると思うが、そうした安易なカテゴライズ以上に実際の中身の音楽は豊かだ。とにかく目立つのはサントゥールの大量の弦による豊かな音色、そしてそれを操るスィヤーヴァシュ・カムカールの圧倒的な技巧。そしてそれに負けないパワフルなドラムスで煽りまくるマーティン・スーターブローク。楽曲自体も世界中に強い訴求力を持つであろうキャッチーなカッコ良さがあって、楽しい。
(3)「Tahrir」はアラビア語で「解放」を意味する。イランの伝統的な音楽に見られるヘテロフォニーを取り入れている。
(4)「Mehrabani」も前半部から平均律から外れるサントゥールの響きが良い。サントゥールは残響も多いため、和音の響きは西洋音楽の価値観から捉えると“ひどく濁っている”となるのだろうが、それを当然のように鳴らされると不思議と心地よく聴こえ、西洋音楽的な価値観における“正しい音”が、実は単なる刷り込みに過ぎなかったのではという疑念さえ湧き起こる。一方でドラムスやベースは耳馴染みの良い西洋音楽の理論のもとで鳴らされており、サントゥールが奏でる音階との面白い対比となっている。
こういった演奏は、音楽に対する視野を大きく広げてくれるものであろう。
(5)「Alhambra」にはタイとウガンダで育ち、オランダとドイツを拠点とするジャズ・フルート奏者のマルク・アルバン・ロッツ(Mark Alban Lotz)がゲスト参加。アドリブ・ソロもたっぷりと披露しており、彩りを加えている。
Marvash :
Siavash Kamkar – santur
Martijn Soeterbroek (DrummerMartijn) – drums, percussion
Featuring :
Thijs van Zutphen – bass
Mark Alban Lotz – flutes
Behrooz Zandi – synthesizers