カイナン・カヴァルカンチが贈る至福のギター音楽
ブラジルの若手ギタリストにおける最高峰のひとり、カイナン・カヴァルカンチ(Cainã Cavalcante)が新譜『Coração de Melodia』をリリースした。彼自身10枚目のアルバムとなる今作は自身のプロデュースによって制作され、レパートリーはブラジルの偉大な作曲家たちの楽曲を中心に据えている。
今作は彼の驚くほど卓越したギター1本での演奏が中心だが、ジャヴァン(Djavan)作曲の(2)「Faltando um Pedaço」はエストニアのタリン・スタジオ・オーケストラ(Tallinn Studio Orchestra)と共演。穏やかなギターにぴったりと寄り添う美しいストリングスのアレンジが静かに感情を揺り動かす。
唯一のブラジル国外の曲としてポール・マッカートニー(Paul McCartney)の名曲(3)「Blackbird」をソロギターのアレンジで収録。多くのギタリストが憧れるこの曲を、独創的かつ美しいアレンジと優れた技巧で聴かせてくれる。世界中でもっとも優れた「Blackbird」のギター・カヴァーのひとつであることは間違いない。
同郷セアラー州出身のギタリスト、ノナート・ルイス(Nonato Luiz, 1952 – )作の(7)「Rubi Grená」も美しい。比較的シンプルな編曲で、ナイロン弦が奏でる響きの美しさに浸る。
ラストは“ブラジル第2の国歌”といわれる国民的な人気曲、ピシンギーニャ(Pixinguinha, 1897 – 1973)の(9)「Carinhoso」。今作中唯一のヴォーカル曲として、ボサノヴァ世代の女性歌手/ギタリストのホーザ・パッソス(Rosa Passos)と共演。言わずもがな、あまりに美しく感傷的だ。
Cainã Cavalcante 略歴
カイナン・カヴァルカンチは1990年ブラジル・セアラー州フォルタレーザ出身のギタリスト/作曲家。若くしてギタリストとしての卓越した才能を発揮し、現在までに9枚以上のアルバムをリリースしている。
彼の音楽キャリアは幼少期から始まり、10歳の時にサンパウロで開催されたクラシック・ギターコンクール「Musicallis」で優勝したことがきっかけで早熟な天才として注目を集めた。デビュー作『Morador do Mato』(2002年)では詩人パタチヴァ・ド・アサレー(Patativa do Assaré, 1909 – 2002)から贈られた詩をインストゥルメンタルとして再解釈するなど瑞々しい感性を披露している。
15歳の頃から国内外のアーティストとの共演を始め、ドミンギーニョス(Dominguinhos)、シコ・セーザル(Chico César)、ヤマンドゥ・コスタ(Yamandu Costa)、アミルトン・ヂ・オランダ(Hamilton de Holanda)、ヒカルド・バセラール(Ricardo Bacelar)といったブラジル音楽界の大物から、ミシェル・ピポキーニャ(Michael Pipoquinha)やペドロ・マルチンス(Pedro Martins)といった若手まで幅広いミュージシャンと共演してきた。
ブラジル音楽史を代表するギタリストであるガロート(Garoto, 1915 – 1955)の名曲を再解釈したアルバム『Sinal Dos Tempos – Cainã Toca Garoto』(2021年)では、彼の卓越した技術と表現力が際立っている。
Cainã Cavalcante – guitar
Tallinn Studio Orchestra (2)
Rosa Passos – vocal (8)