ペトロス・クランパニス新譜『Latent Info』
ギリシャ出身のベーシスト/作曲家ペトロス・クランパニス(Petros Klampanis)の新作『Latent Info』。アルバムはエストニア出身のピアニスト、クリスチャン・ランダル(Kristjan Randalu)とイスラエル出身のドラマー、ジヴ・ラヴィッツ(Ziv Ravitz)との共同名義だが、収録曲は多くがペトロス・クランパニスの作曲クレジットとなっている。
”潜在情報”と題されたアルバムのテーマは、“目に見えないまま、潜在的に隠れたまま、生活の喧騒の中でしばしば無視されたり気づかれずに残されたりするすべてのものに対する心からの賛辞”だという。幼子の声の短いサンプリングで始まる(1)「Over the Calypso Deep」は、いきなり素晴らしい名曲だ。5拍子のリズムと4拍子の旋律が美しく交差し、海への畏敬を表すこの曲がアルバムのテーマを象徴している。国境を越えた現代ジャズの名手である3人は、空気中から水滴を取り出すように、日常のまわりにある見えないもの、言葉にできないものを音楽という形で抽出しているようだ。この曲を聴けば、彼らの繊細な哲学が身に沁みて感じられる。その哲学は言葉にすることは難しいし、おそらくするべきではない──感じるしかないのだ。
表題曲(2)「Latent Info」は、恐れと迷いによって言葉にすることのできなかった感情、社会的な抑圧により掻き消されてしまった声、中に浮いたまま行き場を失った言葉たちへの讃美歌だ。極めて繊細なトリオの演奏に薄く被さるシンセサイザーの和音にも強い想いが込められている。
数少ないカヴァー曲として、チック・コリア&ゲイリー・バートンの演奏でも知られる米国のベース奏者スティーヴ・スワロウ(Steve Swallow, 1940 – )作の(6)「Falling Grace」が収録されている。
ゲスト参加のアンドレス・ポリツォゴプロス(Andreas Polyzogopoulos)のトランペットが空間を鋭く
Petros Klampanis 略歴
ペトロス・クランパニスは1981年ギリシャの美しい海に囲まれたザキントス島生まれのベーシスト/作曲家。ニューヨークと故郷ギリシャを行き来しながら活動を行っており、これまでにスナーキー・パピー(Snarky Puppy)、ジャン=ミシェル・ピルク(Jean-Michel Pilc)やギラッド・ヘクセルマン(Gilad Hekselman)、小川慶太、グレッチェン・パーラト(Gretchen Parlato)、アリ・ホーニグ(Ari Hoenig)、ジャキス・モレレンバウム(Jaques Morelenbaum)らとの共演歴を誇る。
Kristjan Randalu – piano
Petros Klampanis – bass, electronics
Ziv Ravitz – drums
Guest :
Andreas Polyzogopoulos – trumpet (7)
- ミキス・テオドラキス(ギリシャ語:Μίκης Θεοδωράκης, 1925 – 2021)…クラシック、オペラ、バレエからギリシャでのポピュラー音楽、映画音楽と幅広い分野で作曲活動を行った。ギリシャにおける20世紀最大の音楽家と言われ、ギリシャの芸術・文化に大きな影響を与えただけでなく、レジスタンスとしての政治活動によって社会的にも影響力を持った。 ↩︎