魂震わす低音、現代JAZZ屈指のベーシスト、ペトロス・クランパニス新譜

Petros Klampanis - Rooftop Stories

魂を揺さぶる低音、ペトロス・クランパニスのソロ新譜

ペトロス・クランパニス(Petros Klampanis)は間違いなく現代屈指のベーシストだ。高く評価された最初のラージアンサンブル作品『Chroma』をリリースした年でもある2017年、彼は“ルーフトップ・ストーリーズ(屋上の物語)”と呼ばれる一連のプロジェクトを開始した。これは公演で訪れた世界の都市の建物の屋上で、その土地に因んだ楽曲(オリジナルもあればカヴァーもある)をソロで演奏するというもので、彼が愛する音楽と旅行の最大の産物でもある。

その映像はYouTubeやFacebookにアップされ、卓越したベースの演奏とルーパーを駆使した驚異的なパフォーマンス、そしてアテネやロンドン、ハバナといった都市の眺めをはるかに見下ろす映像美も含め多くのファンが見入ったことと思う。

ロンドンの家屋の屋上で演奏する(4)「Alfonsina y El Mar(アルフォンシーナと海)」
このあと、ロンドンの街はOpheliaと呼ばれる嵐に見舞われた。

自身のリーダー作だけでなく、これまでに世界中の数多くのトップアーティストの作品でも豊かなベースの音を響かせてきたペトロス・クランパニスだが、多くの人が孤独と向き合わざるをえなくなった2020年、彼は自身のベースという楽器のみに再び焦点を当てた。アテネのスタジオに入り、ベース1本とBOSSのルーパーを駆使し“屋上の物語”のレパートリー10曲を再収録しアルバム用にまとめた。これが彼自身5作目となる『Rooftop Stories』だ。

ペトロス・クランパニスの豊かなベースの音は鼓膜だけでなく魂をも強く震わす。冒頭(1)「Smile」は言わずと知れたチャップリンの名曲。息遣いまで生々しく録音されたベースソロの音が素晴らしく良い。南米音楽ファンとしてはアルゼンチンの詩人、アルフォンシーナ・ストルニを歌ったアルゼンチンの名曲(4)「Alfonsina y El Mar」も聴き逃せない。

(5)「Minimal Dispute」は彼の代表曲である「Minor Dispute」(2ndアルバム『Minor Dispute』収録)への返歌だろうか。スティーヴ・スワロウの(7)「Falling Grace」、スティーヴィー・ワンダーの(8)「Isn’t She Lovely」もそれぞれ独自の解釈でしんみりと聴かせる良い演奏。

ピアノトリオやラージアンサンブルでのペトロス・クランパニスも良いが、ソロでのパフォーマンスもまた絶品。深夜にひとりお酒でも嗜みながら聴く音楽としては、この上なく贅沢で最適な作品なのではないだろうか。

アテネの屋上で演奏するウェイン・ショーターの名曲(3)「Footprints」
チャップリンの名曲(1)「Smile」

Petros Klampanis – bass, voice, percussion

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