セウ・ジョルジの再来!? ストリート叩き上げのブラジリアン・サイケ新星Caxtrinho、驚異のデビュー作

Caxtrinho - Queda Livre

ブラジリアン・サイケ新星カシュトリーニョ、驚異のデビュー作

アントニオ・ネヴィスやアナ・フランゴ・エレトリコ、バラ・デゼージョといったぶっ飛んだ才能を次々と世に送り出すブラジル・リオデジャネイロから、また新たな狂才が現れた。リオ郊外のバイシャーダ・フルミネンセで育ち、現在も拠点とする1998年生まれのSSW、カシュトリーニョ(Caxtrinho)のデビューアルバム『Queda Livre』。サンバやカンドンブレといったブラジルの伝統を確かに受け継ぎながらも、それらの原型をほとんど留めないほどに弄り回し、強烈なファズの効いたギター、ドラッグに塗れたジャズを大鍋にぶち込んで掻き混ぜたような凄まじい音楽だ。エレクトリックは風景を奇妙に歪ませるが、ちょくちょく主張するように顔を覗かせるガットギターやパーカッションのアコースティックな感触が、血の通った生温かい命の脈動を思い出させる。

(1)「Cria de Bel」

きっかけは2021年。リオのインディペンデントレーベル、QTV Seloが設立10周年を記念して新人アーティストを発掘するプロジェクトを立ち上げ、ここでCaxtrinhoが選ばれ、これがデビューアルバム制作へと繋がった。録音はパンデミックによる一時中断があったものの、2021年から2022年にかけて行われ、アナ・フランゴ・エレトリコ(Ana Frango Elétrico)やネグロ・レオ(Negro Leo)といった現在のブラジル音楽シーンにおける重要アーティストも参加している。

比喩的にベルフォード・ロッショ1(BEL)のチルドレンである自身の境遇を歌う(1)「Cria de Bel」から、驚くほどの才能を感じさせる楽曲が並ぶ。彼は“脇役”(figurantes)に光を当てることを好み、出身地であるバイシャーダ・フルミネンセ2の日常生活や社会的な矛盾を詩的かつユーモラスかつ鋭く描き出す。家族や地元の友人へのオマージュも多く、個人的な体験が作品に深みを与えている。

今作ではカヴァキーニョなどで参加するカウ(Kau)作曲の(9)「Merecedores」には、アナ・フランゴ・エレトリコがピアノとヴォーカルで参加している

強烈なインパクトを残すサイケデリックな音像、同郷のセウ・ジョルジを彷彿させる声、左利きでガットギターを演奏する姿など、すでにカリスマのオーラを放つ。“次のアルバムはさらに大胆な実験をしたい”と語るなど、これからの活動にも大いに注目したいアーティストだ。

Caxtrinho 略歴

カシュトリーニョ(本名:Paulo Vitor Castro)は、1998年にブラジル・リオデジャネイロ州バイシャーダ・フルミネンセ地域のベルフォード・ロッショで生まれたシンガーソングライター/マルチ楽器奏者。音楽一家で育ち、打楽器奏者である祖父ニルトン・カストロ(Nilton Castro)からギターと音楽の基礎を学んだ。

10代後半から、音楽業界のコネクションがほとんどない状態から地元の小さなクラブやストリートで演奏を始め、Instagramで自作曲を公開することで注目を集め始めた。2021年、ヴォヴォ・べべ(Vovô Bebê)との出会いをきっかけにデモ制作を開始し、QTV Seloのプロジェクトを通して2024年8月22日にデビューアルバム『Queda Livre』をリリースした。

音楽的にはルイス・メロヂア(Luiz Melodia)、トン・ゼー(Tom Zé)、カエターノ・ヴェローゾ(Caetano Veloso)といったMPBの巨匠や、サンパウロ前衛派のヴァングアルダ・パウリスタ(Vanguarda Paulista)の実験精神から強い影響を受けており、サンバやボサノヴァにサイケデリックロックを融合させた独自のスタイルと、社会の周縁を描く歌詞で高く評価され、ブラジル音楽シーンの新星として期待されている。

ライヴで演奏するCaxtrinho

Caxtrinho – vocal, acoustic guitar, samples (7, 10), chorus (2)
Eduardo Manso – electric guitar (1, 3, 4, 6, 7, 9, 10), sampler (2, 5, 7, 9, 10), Rhodes (1, 4), synthesizer (1, 10), scaleta (3), harmonium (6)
João Lourenço – bass
Phill Fernandes – drums
Vovô Bebê – electric guitar (1, 3, 4, 5, 7, 8), flute (6)

Guests :
Ana Frango Elétrico – chorus (2), piano (9), vocal (9)
Bruno Schiavo – vocal (9)
Kau – cavaquinho (1, 7, 8), percussion (4, 5), cuica (4)
Marcos Campello – electric guitar (2), trumpet (9)
Negro Leo – vocal (3, 4)
Pablo Carvalho – percussion (1, 2, 7, 9)
Paulinho Bicolor – cuica (1, 4, 10)
Renato Godoy – synthesizer (4)
Thomas Harres – percussion (3, 6, 10)
Thomás Jagoda – Rhodes (3, 5)
Tori – chorus (2), vocal (9)
Xuxuvevo – chorus (2), vocal (5)

  1. ベルフォード・ロッショ(Belford Roxo)…リオデジャネイロ州にある1990年に市制施行された比較的若い都市。低所得者層が多く居住。ブラジルを代表するシンガーソングライターであるセウ・ジョルジ(Seu Jorge)の出身地としても知られている。 ↩︎
  2. バイシャーダ・フルミネンセ(Baixada Fluminense)…リオデジャネイロ市の北に位置する一帯。ベルフォード・ロッショ市を含む。13の自治体からなり、約350万人が暮らす労働者階級の多いエリアであり、貧困やインフラ不足、治安問題が課題として挙げられる一方、サンバやフォホーといった豊かな音楽文化が根付いている。 ↩︎

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